コンサートホールの作成は協力が得られない
「伊織、バイオリンを練習するぞ」
「わかりました」
「では、音楽室に移動するぞ」
「ビアンカさん。第二音楽室でお願いします」
「第二? そんなものがあるのか?」
「ま、いい。転送してくれ」
「私も見たいので、私も参加するわ」と言い、私も参加した。
「ほう。ここが第二? 音楽室と同じじゃないか?」
「そうなんですけど、悠人が文句を言ったので…」
「なるほどね。バイオリンを出してくれ。弓はこちらを使え」
「弓? 弓はそれを使うのですか?」
「そうだ。ギュスターヴ・ベルナルデルのロンジンを付けたような状態にしている」
「ロンジン?」
「松脂だ。弓毛にはロンジンをつけることによってグリップ力と滑らかさが増える」
「グリップ力と滑らかさは相反しないですか?」
「使ったことがないと分かりにくいな… 感覚だから弾いて自分でわかるしかないな」
「じゃ、弾きますね」
「待て。弓の持ち方の矯正が先だ」
「弓の持ち方? 動画で勉強しましたよ」
「まず、右手を体の前でだらりとしてみろ」
「わかりました」
「次は親指の第1関節を軽く曲げ、中指の第1関節の近くに寄せる。親指を曲げる際に他の指が伸びたり突っ張ったりしないか注意しろ」
伊織は言われた通り指を曲げる。
「よし。いいな。次はその状態で中指と親指だけの輪っかで弓を持ってみろ」
「はい」
「安定しないな。安定していないのは弓を正しく持てていないということだ」
しばらく伊織が挑戦した。
「ま、良いだろう。薬指を弓をそえろ。これが基本の持ち方だ。その後アレンジするかは伊織しだいだ。弾いてみろ」
「はい」
伊織はバイオリンを一音鳴らした。
「ビアンカさん! すごい!全然違います。ん? これって弓を変えたから?持ち方? 前の弓で試してもいいですか?」
「あぁ。いいよ」
伊織は前の弓で一音鳴らしたが、音が安定しない。少しギコギコ言う。はっきり言って不快…
「グリップ力? 滑らかさ? 違いますね」
「後は練習だな。地球の伊織も練習していた」
「わかりました。ビアンカさん、何か弾いてください」
「わかった」と言い、バイオリンを空中から出して弾いた。
弾き始めの一音でわかるわ。音が透き通って綺麗! ビアンカうまいわ。
曲はエルガーの愛の挨拶ね。
「ポルタメントってあまり好きじゃなかったけど、いいですね。素敵です」と伊織が言った。
「ポルタメント?って何?」
「音を移る際に指を滑らす音だよ」とビアンカが言って、弾いてみてくれた。
「今度、私がピアノを演奏するわ」
「ま、気が向いたらな。次はピアノの改修だ。アルジャーノン変えてくれ」と言った。
ビアンカがピアノの鍵盤を叩き、弦を確認すると「兎、弾いてみてくれ」と言った。
私はピアノに座り、エルガーの愛の挨拶がいいかな?
鍵盤の感じは変わらないけど、音の広がりが違う… 弾いてみると前のピアノはコンサートホールのような音がしていただけなのね…
「前のは目を閉じればコンサートホールで弾いている気がしたけど、これは目を閉じても音楽室だわ」
「兎先生、それって前の方が良かったということ?」
「違うわ。本物ということよ」
「でも、コンサートホールの方がいいじゃないですか?」
「そんなことはないわ。コンサートホールで弾きたかったら、コンサートホールを作ってこのピアノで弾けばいいだけじゃない?」
「私は協力しないぞ」とビアンカが食い気味に言った。
「私はまだ、お願いしていないけど…」
「地球の兎がコンサートホールの作成時にしつこく協力を依頼されたからな」
なるほど、経験済みということか…




