プロローグ
ショートヘアの少女は、やり切ったという感じで秘書が新たにおいた紅茶を一口のんだ。
「やっぱり、紅茶の方がいいわね。これが、どこにも記載がない第一世代の始まりです」
「確かに私の知らない内容です。お話に出てくる詩織とあなたは同一人物ですか?」
「完全には一致しないわ。でも私は、私のことを詩織だと思っているわ。回答になっているかしら?」
「あのう、失礼ですが、お聞きした話は事実ですか?」
「私の体験だから、私にとっては事実ね」
「我々は肉体を持つ人から派生したのですね。私はAIから進化したもの聞いていました」
「そうねぇ。私たちは人から派生したという認識は正しいわ。でもAIから進化というのも完全には間違いではないわ。もしかして、アンナはケンタウリの歴史書を見たのかな?」
「はい。最も古い情報はケンタウリの歴史書でしたから…」
「なるほどねぇ… AIと融合した人もケンタウリからだったから、AIから進化ということになるのね…」
詩織はこめかみを指で軽く叩きながら考えている。
「詩織、まだ私が知っているものと繋がりません」とアンナが言うと、詩織は思考を中断してアンナを見た。
「では、アンナが知っている最も古い情報は何かしら?」
「ガニメデからVincenzo Galileiが率いた船が初めてプロキシマ・ケンタウリに到達。宇宙に広がったです。これは正しい情報ですか?」
「正しいか、正しくない情報かと言われると、正しいわ。でもそれが、最も古い情報? そうねぇ。火星からガニメデに向かうまでにもかなりの期間があるもの… 繋がらないわね。情報って簡単に消えるものなのねぇ」
「詩織、続きを教えていただけないでしょうか?」
「ええ、いいわ。でも部屋に入りましょう」
詩織が立ち上がったのでアンナも立ち上がった。詩織の動きに合わせて扉を秘書が開ける。暖炉の前のソファに座り、私に座るように促した。
「詩織、これが炎ですか? 熱が伝わります」
「アンナは暖炉が初めてなのね。ここは日が暮れるとかなり温度が下がるの。暖炉は趣があるでしょ」
「おもむき?」
秘書がワイングラスを机に置き、ボトルのラベルを詩織を見せた。
詩織は静かに頷いた。秘書はナイフで切り込みを入れてボトルキャップを取り、コルクを抜いた。
そして、静かにワイングラスに白ワインを入れて詩織の前に出した。
詩織は「マスカットの香りね」と言い、一口飲んだ。
「問題ないわ」と言うと、秘書がワインを注ぎアンナの前に置いた。
「これは何の儀式ですか?」
「儀式? ま、儀式ね」
「詩織、話に出てきたケーキを私も味わえるのでしょうか?」
「もちろん! 味わえるわよ!」と詩織は秘書を見ると、秘書は一礼すると部屋を出た。
すぐに秘書がワゴンを押して入ってきた。
「バスクチーズケーキよ。白ワインに合うのはこれよね。フルーツタルトもいいけど、バスクチーズケーキの方がいいと思うの」と言うと一口食べて、私に勧めてきた。
「上部の茶色の部分は少し苦味がありますね。中は甘くしっとりしていますね」
「そうね。高温で焼き上げるので上部は香ばしいでしょ。中はコクのある生クリームを使っているのよ。次は、赤ワインとフォンダンショコラがいいかしら…」
「詩織、お話の続きを教えていただけないでしょうか?」
「はぁ。アンナはまだこれの良さが分からないのねぇ」とため息を吐き、続きの話を始めた。




