アダム達はただのプログラム?
次の日、生命科学室に行くとアンジェと千秋先生いて、「火星への航行の訓練が始まった」と教えてくれた。
「じゃ、仮想環境には入れないですね」
「いや、問題ないぞ、訓練はアメリカ東部時間の昼間に行うからな」
「でも、休む時間が必要ですよね?」
「彼らは寝ない。瞑想はするようだが…」
「そうでした。で、訓練はどれくらいかかるのですか?」
「1ヶ月だ」
「短くないですか?」
「ロケットの発射が1ヶ月後だからな」
「は? そんなに急なんですか?」
「火星の位置が関係するからしかたがないな」
「人類初の火星着陸ですね。世界中が注目しますよねぇ」
「どうかな? 人類初とは認定されないだろう。今回は人類到着のための調査とみなされている」
「そうなんですね…」
「神木さん達は人類だと思うのですけど…」
「人類と見做されない方が都合がいい」
「どうしてですか?」
「1つ目は、神木さん達が人類と認めると火星に行けない」
「なぜですか?」
「そうだなぁ…」と千秋先生はアンジェを見た。
「一番乗りはNASAというかアメリカ人でなければならないと考えているからな。移民国家なのに変だよね」と肩をすくめた。
「うーん。わからなくはないですね」
「2つ目は、人類が火星からの帰還の確率が増大する」
「神木さん達が事前に環境を整えることが可能だからですか?」
「ま、そうだな。3つ目は最も重要だが、神木君達が人類でなければ法的な問題が発生しない」
「法的な問題?」
「人類だと、神木君達を作ったこと自体が法的な問題となる可能性があり、一ノ瀬グループも打撃を受ける」
「なるほど。今は問題ないのですか?」
「宗教系は文句を言っているところもあるな」
「どういう内容ですか?」
「人は神のかたちに似せて造られたというものだ」
「かたちって… 実体はないですよね? 仮想環境ですからただのアバターですよ」
「そうだな。でも、詩織は人と思っているのだろ?
「そりゃそうですよ」
「ロボットは友達っていう感覚だねぇ」とアンジェが言った。
「アンジェは神木さん達は人とは考えていないの?」
「うーん。意識があるAIという意味では興味はあるけど、人じゃないかな。人体から生まれていないからね」
「そうかもしれないけど…」
「私は詩織の感覚に興味があるなぁ。詩織は、ロボットの犬も友達って思えるのかい?」とアンジェが聞いてきた。
「え? うーん。普通に喋るロボットは可愛くないかなぁ」
「可愛いか可愛くないかで友達かどうかが決まるのか?」
「…そうね」
「衝撃的だな。千秋も同じなのか?」
「私は喋るロボットは道具だから友達ではないな。いや、手に馴染む道具には愛着があるなぁ。それは友達と言ってもいいかもしれない。アメリカ人もぬいぐるみに名前をつけたりするだろ? 友達ではないのか?」
「そういえば、そうだな。そういうアメリカ人もいるが、私はつけたことがない。でも、ロボットの葬式は変だぞ」
「私も理解できないが、物には魂が宿るという考えだからかなぁ」
「魂? Soul? 機械に魂が宿る? 肉体がないんだぞ?」
「日本では、森羅万象に神が宿っているという考えだからな。すなわち、ありとあらゆるものに神が宿っている」
「多神教か… 何人いるんだ?」
「さぁ。八百万神だから8百万だが、沢山という意味だな」
「そんなに、いるのか!?」
「例えば、どんな場所に神がいるんだ?」
「そうだなぁ。山や川にもいるが… 古事記では、イザナギが左目を洗うと天照大御神が、右目を洗うと月読尊が、そして鼻を洗うと素盞鳴尊が次々に産まれたとあるな」
「洗っただけで神が生まれるのか!? 日本はかなり知っているつもりだったが… カルチャーショックだな」
「アンジェはアダム達もただのプログラムと思っているの?」
話が変な方向に進んでいるが、どうしてもアンジェに聞きたかった。
「…ただのプログラムではないな」




