料理の再現は河野さんのおかげ
私は料理について相談する相手に優佳と絵梨香さんと河野さんが思い浮かんだ。
千秋先生のことは考えたが、千秋先生は食べ物には詳しいけど、食には興味がないみたいだから…
絵梨香さんや河野さんとは食事に関してはあまり話したことがないのでポテンシャルがわからない。
兎さんは優佳とは会えないので、優佳の話をすると悲しむと思ったのでできなかった。
とりあえず、絵梨香さんと河野さんにチャットを入れた。
絵梨香さんは大学にいて、食べ物に関しては普通だと思うらしい。
河野さんは生命科学室に来るということで、来てくれた。
「おはようございます。河野さん」
「おはようございます。詩織さん、ケーキは詳しくないけど、辛いものにはちょっとうるさいですよ!」
「そうなんですか? 兎さんがグリーンカレーや麻婆豆腐を作っているのですけど、改善のヒントが欲しかったのです」
それを聞いた河野さんが疲れた顔をした。
「…それですか…」
「どうしたのですか?」
「兎さんには相談されたのですけど、私が味見できないので無理ですよ」
「? 兎さんは他の料理はかなり再現度が高いじゃないですか?」
「ステーキなんかは簡単なんですよ」
「どうしてですか?」
「3Dプリンタで肉を再現したり、代用肉なんかでいろいろ調査が進んでいるので匂いや食感のデータは揃っています。それ以外の情報は少ないです」
「どうして肉以外は少ないのですか?」
「肉と言っても牛肉ですね。それ以外はアメリカ人は興味がないみたいなので…」
「アメリカ以外も研究していますよね? 日本も研究していますよね?」
「していますよ。していますが、牛肉が一番儲かる可能性が高いから研究資源が集中しているのでしょうね。日本の情報も兎さんに提供しています。その情報と、『私の献身』で仮想環境の食事が出来上がっているのですよ」
「河野さんの献身?ってどういうことですか?」
「ここで取り扱っている食材と調味料のデータすべてと料理になってからのデータを兎さんに提供しています」
「ここの料理って、ものすごい品揃えですよね?」
「そうなんですよ… 大変なんですよ。料理は食べずにデータを取るだけで捨てるなんてできないので、私が食べることになります…」
「それは、大変ですね。ここの料理にグリーンカレーはないかもしれないですけど、普通のカレーや麻婆豆腐はありますよね?」
「カレーと麻婆豆腐はありますよ。そのデータは兎さんに渡していますよ。グリーンカレーは店から宅配してもらって調査しました」
「そうなんですね。じゃ、そのデータで仮想環境で再現しているけど、うまく再現できないのですね。でも、どうして他の料理は問題ないのでしょう? それに、ケーキはものすごく再現度が高いですよ」
「兎さんが作ったことがある料理は、馴染みがあるので改良はそれほど難しくないそうです」
「ケーキは?」
「ケーキですか? そうですねぇ。改良回数と相関性があるかもしれないので、改良回数をプロットしましょうか…」
河野さんが端末を操作した。
「料理毎の改良回数のグラフです。改良回数の5割がケーキですね… 意外と辛いものの改良も多いですね。一番改良回数が多いケーキは100回以上も改良していますね。ものすごい執念です」
「兎さんも苦労しているのですね…」
「はぁ。詩織さん、『私も』苦労しているのですよ」
「そうですね。ありがとうございます。河野さん。今度なにか持ってきましょうか? リクエストがありますか?」
「!?本当ですか? えーっと、ちょっと待ってください。…あ、これです」っと端末の内容を表示した。
「なんですか? ん?このリストってお茶? それ以外にもいろいろありますね…」
「兎さんが要求しているリストで残っているのがこれです」
「すごいですね。このリストを見てお茶ってわかるなんて… 私は全くわかりませんでした。お願いできますか?」
「はい。いいですよ。でも、お茶って淹れる人でかなり変わりますよ」
「あ! そうだったのですね…」
「何か思い当たったのですか?」
「お茶はデータがおかしいのでは?と言われるので…」
「カンナさんが一番うまいけど、私も淹れれるわ」
「カンナさん?」
「カンナさんはうちのメイドさんです」
「…メイドがいるのですか…」
「メイドさんがいる家って結構多いと思いますよ」
「…それは、詩織さんの周りだけです」




