アンジェの新型高性能MRI その2
「詩織、この高性能MRIは詩織が使っている高性能MRIの2.2倍高性能なんだよ。そのために超伝導が必要だったんだが、ラッキーなことに液体窒素で動く高温超伝導が手に入った」
「液体窒素だと何がいいのですか?」
「液体ヘリウムから考えたら、高温なんだよ。値段が20倍違うんだよ」
「じゃ、安くできるのですね」
「アンジェ、本当にこの高温超伝導で入手で問題は起きないだろうな」
「しつこいぞ。大丈夫だ。この電磁石の作成も手伝ってもらったからな」
「ならいいが…」
「どういうことですか?」
「高温超伝導は世界各国が競っている分野だ。機密だから外にそうやすやすと出せるものじゃない。この高温超伝導のコイルは軍機密らしいぞ」
「えー! 大丈夫なの?」
「大丈夫! 許可はもらっているし、この高性能MRIの作成も手伝ってもらったもの」
「このMRIの中に機密が入っているね」と私は大きなヘルメットのような部分をコツコツを突いた
「あぁ。そうなるな」
「千秋、詩織が使っている高性能MRIも光量子チップも機密だろ?」
「まぁな」
「高温超伝導を使うと性能が上がるのですか?」
「あぁ、超伝導素材を使うと小さく強力な磁石が利用できるので、詩織が使っている高性能MRIより2倍高性能になる」
「2.2倍だよ」
「どうして高温超伝導?を最初から使わなかったのですか?」
「超伝導物質で小さな電磁コイルを作るは難しいし、液体ヘリウムを扱うには注意点が多い。面倒なんだよ」
「面倒? 千秋先生が新しいことをするのに面倒って…」
「私はここの通常のMRI装置も液体ヘリウムを利用しているから簡単だろと言ったんだけどね」
「頭に近い部分で液体ヘリウムなんて危険なことはできない」
「えーと、今回は液体窒素だから危険じゃないんですね?」
「危険に決まっているだろ。-196℃が頭の周りにあるんだぞ」
「大丈夫だよ。NASAの断熱材を使っているから-10℃程度に頭を入れている状態で済むよ」
「それって、危険ですよね?」
「30分程度なら問題ない」
「断熱材を厚くするとかすれば安全じゃないですか?」
「断熱材を厚くすれば極端に性能が落ちるんだ。5℃にすると性能は1.3倍に落ちる」
「十分じゃないですか?」
「1.3倍じゃ触感とかがはっきり認識できないんだよ。目を閉じれば立った状態を続けるのが難しい」
「でも、触感が得られるのでしょ?」
「Non! 凛ちゃんをはっきり感じられないでしょ?」
「はぁ。そういうことね… でも-10℃だと長く着けられないと思うけど…」
「アンジェは言っていないが、性能が低いと体に伝わる情報の遮断も低いから危険だ」
「遮断できないとどうなるのですか?」
「仮想空間で体を動かすと現実の体も動く」
「なるほど、危険ですね」
「よし、準備できたぞ! 詩織、入ろう!」
「え? 私も?」
「監視役だ。詩織、入れ」
「わかりました」
アンジェは椅子に座り、ヘルメットをレーザーで位置合わせが問題ないことを確かめた。
私はもう一度、高性能MRIをつけた。
「リンクスタート!」とアンジェが言ったので、私も「リンクスタート」と唱える。
アンジェがリビングにいて、手を開いたり閉じたりしている。
もっとはしゃいでいるかと思ったけど、冷静じゃない?
「詩織がはっきり見える! 手の感覚もシャープだ!」
「私がはっきり見えるの?」
「私は近眼の乱視だが、正視はこう見えるのだな」
「新型高性能MRIで実験していたのでしょ?」
「ここまではっきりは見えてなかったようだ。新型のおかげだな」
「もしかして、2.2倍?の新型での実験は今日が初めて?」
「そうだ。時間がない! 凛ちゃんに会いに行くぞ!」
「はぁ… わかりました」




