アンジェの新型高性能MRI その1
木から落ちて、強かに打ちつけた場所を見てみると少し青くなっている?
なんでだろう。
こちらをじっと見ていた千秋先生が声をかけてきた。
「どうした? 何か違和感があるのか?」
「うーん。仮想空間で木から落ちた時に打ちつけた場所が痛いの」
「どこだ?」
私は足を見せた。
「このあたりです」
「少し青くなっているな。木に登るなんてお転婆は控えなさい」
「お転婆って… 仮想空間で売った場所がどうして、現実で痛いのですか?」
「脳が足痛いと認識したから、体に反応が出たということだ」
「でも、本当に怪我したわけじゃないですよね?」
「仮想か現実かは問題じゃない。脳が本物と認識したら、本物なんだよ」
「じゃ、逆に仮想環境で痛みがないと認識させたら痛みはなくなるのですか?」
「そうなるな。実際に幻肢痛などは仮想環境で緩和できる報告がある」
「幻肢痛?」
「事故や病気で腕や足を失った後に、失ったはずの部位に痛みを感じる状態だ。実際には存在しない部位の痛みだから、脳がそう錯覚していると言える。仮想環境で失った部位を動かすイメージをすることで幻肢痛が緩和するらしいな」
「高性能MRIって活用範囲は大きいですね」
「あぁ。そうだ。目の見えない人も見えるようにできる可能性がある」
「そうですね。4本腕のロボットがあれば、自分の作業の補助もできるだろうし…」
「自分の腕の補助じゃなく、別に用意するのか?」
「うん。そうすれば、体が不自由な人も補助できるでしょ?」
「ほう。面白いが、訓練も大変だし場所を取らないか?」
「訓練はしてもらうしかないかな。でも、場所か… 邪魔だね。家とか学校とか駅とかに置いて、シェアできれば?」
「便利かもしれないが、価格だな」
「人を雇うより安くない?」
「さあな。私の専門外だ」
「服を着るように薄いけど体の動きを補助できればいいんだけど…」
「パワードスーツやアシストスーツはあるが、補助するパワー不足と稼働時間が問題だな」
「そっか。うまくいかないね」
「うまくいかないで思い出したが、アンジェが高性能MRIで仮想環境に入れるようなり、ここで実験したいと言っていたな」
「ここで? どこでも同じでしょ?」
「はぁ。どうも猫に会いたいらしい」
「そういえば、アンジェは猫アレルギーだからね。でも、脳が猫だからアレルギーが起きると思えば、現実でも猫アレルギーが発生するのでは?」
「どうなるかわからんな。ま、アンジェに連絡するか」
千秋先生は携帯を出して、アンジェに連絡した。
「すぐ来るらしい」と言ったと思ったら、廊下?でガシャガシャと音がした。
「アンジェかな?」と言ったら扉が開いて台車になにやら変な機械をいっぱい積んで入ってきた。
「Hi、詩織! 実験だ! 千秋手伝って」と言いながら、機械をいろいろセッティングしている。
千秋先生も手伝っている。私は何をどうすればいいのかわからないので見ているだけ…
私が使っている高性能MRIより大掛かりだ。椅子にはメモリが付いており、レーザー光線?が顔の部分や肩の部分に当てられている。
「なんですか? レーザー?は」
「頭の位置を合わせるためだよ。正確に位置を再現しないと、詩織のレベルには達しないんだ」
「私が使っている高性能MRIはそんな椅子なんてないですよ」
「詩織は少々いい加減につけても、データ取得量が多いから補正できるが、私のレベルだと位置を正確に合わせないとダメなんだ。よし、設定が終わった。千秋、私を固定して!」
千秋先生はアンジェを椅子に固定し、頭の位置を合わせて高性能MRI?をつける。
「千秋先生、高性能MRIも違いますね」
「液体窒素を流しているからな」
「液体窒素?」
「あぁ。そのボンベに入っている」
「液体窒素って冷たいってやつですよね?」
「液体窒素は-196℃だな」
「すごく冷たいですね」
「いや、高温だよ。最初は液体ヘリウムを使うつもりだったから」
「詩織、液体ヘリウムは-269℃だ」
「どっちも冷たいだけじゃないですか?」
「詩織、絶対零度を知っているだろ?」
「はい。学校で習いました。-273.15℃ですよね? あ、そうか。ほぼ絶対零度ですね」




