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絵梨香の実験

 私は仮想環境から抜けて、高性能MRIを外した。


 私は千秋先生から聞いた、アメリカの会社による火星へのロケットの話は兎さん達にしていいかどうかは聞いていなかったので、兎さん達にはしなかった。

 兎さん達がアダム達と連絡を取っていることも千秋先生には言わない気がする。

 相互に言わないことが正解かどうかはわからないけど…


 兎さん達が火星に行くのは寂しいけど、神木さんが言うように迫害を受ける可能性もあると思う。

 迫害なんてない方がいいに決まっているけど、人は自分と違うことを嫌う傾向があるから完全には防ぐことはできないだろうな。

 迫害には戦うことも考えられるけど、逃げることもありだよね。アーミッシュは17世紀後半にヨーロッパで迫害を受けたためにアメリカに渡ってきた移民だから、同じように火星に逃げるか…

 いい解のような気がする。


 じゃ、前向きに火星に行っても兎さん達が快適に過ごせるように、ここと同じ環境を残す必要があるわね。

 でも、何を残せばいいんだろう? 知識やデータは残せるだろうしなぁ。今度、神木さんに相談するかな。


「おはよう、詩織さん。久しぶりね」

「おはようございます、絵梨香さん。久しぶりです。私、ほぼ毎日、生命科学室に来ているけど会えませんでしたね」


「私、大学に行っていたから」

「大学? 絵梨香さんって大学生なんですか?」


「そうよ。博士論文を出す準備をしていたからね」

「絵梨香さんって博士なんですね」


「まだよ。博士なんてここじゃゴロゴロしているわよ。千秋さんも河野さんもそうだもの」

「へぇ。みんな賢いなぁ」


「賢いねぇ。賢いってなんだろうね。河野を見ていると、博士には見えないしね」

「ふふ。確かに博士のイメージとは違うわ。そういう意味だと絵梨香さんもイメージと違うわ」


「そう? 千秋さんは博士という感じがするわね。なのに、詩織さんは千秋さんのことを桃華ちゃんと呼んでいたのでしょ? よく、桃華ちゃんと呼べたわね」

「私のお姉ちゃんの家庭教師だったけど、私から見たら大きいお姉ちゃんだったから、千秋先生というより、桃華ちゃんだったんだよねぇ。そういえば、絵梨香さんの研究テーマはなんですか?」


「環境変化と脳への影響よ」

「環境変化で脳に影響するの?」


「するわよ。日本人は虫の鳴き声というけど、外人にとっては雑音ということを聞いたことない?」

「はい。あります」


「日本語の漢字、ひらがな、カタカナなどの言語が影響しているという説もあるわ。これも環境ね」

「じゃ、絵梨香さんは長期の環境変化が脳に与える影響が題材ですか?」


「違うわ。短期でも脳に影響を与えることを調べているの。特に小さい時の環境は脳に与える影響が大きいわね」

「そうですね。経験的に合っているような気がしますね」


「兎さんの言葉の発生の仕方の変化があったのでしょ? たった数ヶ月で変化したのよ。すごいわ」

「じゃ、これを論文にするのですか?」


「守秘義務があるから、ここでの内容は論文にできないわ」

「そうですね」


「詩織にお願いがあるんだけど…」

「なんですか?」


「詩織さんの人工脳モデルをもう一度作りたいの。そして、同じことを兎さんでも行いたいの」

「私の人工脳モデルをもう一度作ると何がわかるのですか?」


「この期間の脳の変化がわかるわ」

「それはそうですけど、違いがあると思っているのですか?」


「うーん。五分五分かな」

「じゃ、兎さんは高性能MRIなんてかぶれないですよ。どうするのですか?」


「詩織さんと人工脳モデルをつくるために、運動したり、小学校のカリキュラムをするでしょ? それを同じことをしてもらって脳モデルのどこが処理されているのかを調べるの。そうすると、詩織さんとの違いを調べることができると思うの」

「わかったわ。でも、前回同様にケーキを要求するけどいい?」


「いいわ。交渉成立ね」

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