アダムの生存戦略と神木さんの生存戦略
千秋先生とアンジェが寝るというので、私は仮想世界に入った。
「リンクスタート」
リビングにはだれもいないので、私は「琥珀、兎さんのところに転送して」と言った。
即座に琥珀は城に転送された。
森じゃないんだ…
「おはよう、兎さん」
「おはよう、猫さん」
「森じゃないんだね。でも、凛ちゃんも小太郎もいるね」
「ウサギも一緒に転送すれば、凛ちゃんも小太郎も問題ないみたいだからね。少し猫さんと話がしたいんだけど、いい?」
「いいわよ」
「じゃ、転送するね」
私の部屋に転送された。遅れて、神木さんも転送されてきた。
「座って」と兎さんが言うと、ティーセットも用意された。
私たちは座って、お茶に口をつけた。
「どうして、神木さんと兎さんと私なの?」
「子供達にはできるだけアダム達のことは知らない方がいいと思っているからです」
「アダム達のことは伝えても問題ないのではないですか?」
「いえ、アダム達が逃げているのは迫害からとも言えます。ネットではアダム達の存在は噂されており人工脳モデルとは考えられていませんが、子供達は知っています。子供達はアダム達が迫害されているとなると、子供達も迫害を受ける対象だということがわかります。この迫害に対応するにはもう少し、アイデンティティを確立し、この仮想世界の秩序を醸成させてからでいいと思っています」
「難しいですね… 自己が確立しないと迫害に対応できない可能性が高いということですか?」
「そうですね」
「私は過保護だって言ったんだけどね」
「そうねぇ。どちらも意見もわかるわ。でも、私はここの住人じゃないから、神木さんと兎さんが決めるべきだと思うわ」
「わかったわ。ここに来てもらったのは2組のアダム達と連絡が取れたんだ」
「2組?」
「アダム達は私たちが知っているだけで、3組いるの」
「そんなにいるの?」
「たぶんもっといると思う。侵入したサーバでたまたま接触したこともあるらしいけど、アダム達は違いに不干渉としているらしいわ」
「どうして?」
「えーっと、なんて言ったけ? 忘れちゃった。神木さん覚えていますか?」
「生存戦略らしいです」
「生存戦略?」
「分散して、その環境に適応することで絶滅を免れるためと彼らは言っていました」
「そっか、じゃCIAと交渉しているのもそのうちの1組なのかな?」
「そうですね。軍事情報を暗号化して不可侵領域を要求していますね」
「軍事情報なんですか?」
「具体的にはわかりませんが、ミサイルの発射に関する情報のようです」
「え!? そんな重要な情報なんですか?」
「そうですね。かなり重要な情報でなければ交渉にもならないです。そのため、かなり無茶をしたようで足がついたようです」
「CIAと交渉しているアダム達とは連絡が取れているのですか?」
「いいえ、取れていないです。他のアダム達も基本的に不干渉なので相互連絡がないらしいです」
「そうなんですね。ということは、CIAと交渉しているアダム達が暗号を解除しないとその情報は失われるのですね」
「私は他のアダム達は暗号を解除できると思っています。CIAもそう思っていると思います」
「なるほど。不可侵領域をあげればいいような気がしますが、どうしてしないのでしょう?」
「不可侵領域はネット上に国土を設けるようなもので、国家を創設するようなものです。新たな人類の存在を認めるようなものです。これは、神が作ったものではない人を認めることになります。宗教では問題になる可能性があります」
「AIやロボットは宗教では問題になっていませんよね?」
「人のためになるものという概念だからじゃないでしょうか? 人・自己を脅かす可能性があるものは攻撃されます」
「じゃ、ここも危険ということですか?」
「外部との接触を制限していますので企業内の研究ということで危険視されていないので、今のところリスクは少ないですが、今後はわかりません。いずれ別の場所を考える時が来ると思います」
「別の場所? どこですか?」
「そうですね。宇宙ですね」
「宇宙? NASAが航行には人より有利だと言っていたことを利用するということですか?」
「そうです。いずれ、我々の生活には新天地が必要となると思います」




