アンジェの高性能MRIの実験
「待ってくれ、アンジェ。今度は生成した画像をアンジェの目のモデルで変換した情報を脳梁に流すので少し時間がかかる」
「アンジェの目のモデルと私の目のモデルは違うのですか?」
「あぁ。違うぞ」
「もしかしてなんですけど、目が悪い人とか見えない人もこれで見えるようになるんじゃないですか?」
「脳梁がしっかりしていれば見える可能性はあるが、アンジェレベルの高性能MRIの感応力がないと見えないぞ」
「河野さんレベルじゃダメなんですね」
あ、河野さんが落ち込んでいる… ごめんなさい。
「詩織、それは次の研究として、先に私だ」
「アンジェ、映像を流すぞ。何が見えるのか言ってくれ」
「お、こりゃすごい。本当に森にいるみたいだ。さっきのヘッドマウントディスプレイとは段違いだ。臨場感がまったく違う。お、ウサギがいるぞ。ということは、凛ちゃんもいるのか? どこだ?」
アンジェがキョロキョロしている。
「アンジェ、危ない! 落ち着け。 ま、ちゃんと見えていることはわかったが…」
「なあ、千秋。次は詩織のデータを試してみたいな」
「そうだな。詩織のデータを試してみるのはいいが、安全を考えて10%からだな」
「わかった」
「流すぞ」
「いいよ」
アンジェが、首を傾げている。
「何も見えないよ」
「そうか。じゃ、20%にするぞ」
「いいよ。 …うーん。見えない。何も変わらないな。50%にしてくれ」
「わかった。流すぞ」
「いいよ。 やっぱり、見えない。80%にしてくれ」
「わかった。流すぞ」
「いいよ。 白っぽいモヤが見えたが… 何かわからないな。詩織は80%で綺麗に見えているんだろ? 千秋、100%してくれないか?」
「いいだろう。だが、10秒だ」
「わかった。いいよ。流して。 あ、終わった。何だったんだろう? 部屋?」
「そうか、わからないか…」
アンジェが高性能MRIを外して、端末のグラフを確認して「なんでなんだろうね?」と言った。
「高性能MRIのデータ取得量の違いだろうな。詩織の方が感応力が高いからだろうな」
「じゃ、120%にすればもっとはっきり見えるんじゃないですか?」
「脳梁に与えるエネルギー量が通常の量を超えることになる。それは危険だ」
「そっか、それはそうね… じゃ、どうして私のデータだと見えないのかな?」
「それは、簡単だよ。私と詩織じゃ神経の接続が違うからね。同じデータで見えるとは限らない」
「そっか、そうね。じゃ、目が見えない人が見えるようにはならないってことね…」
「いや、高性能MRIの感応力が高ければ、見えるようになると可能性はあると思うぞ」
「どうしてですか? もしかして、120%にするということですか?」
「ちがうよ。人は学習するから少し見えれば、より見えるように神経が発達する可能性がある」
「なるほど…」
「千秋、詩織はわかっていないと思うけど、どうだ?」
「あぁ。わかってないな」
「わかっているわよ。でも、『少し見えれば』って意味がわからなかっただけです」
「2次元の人に3次元の説明をしても理解できないだろ?」
「はい?」
「じゃ、詩織に4次元の説明をしても理解できないだろ?」
「うーん。次元が増えただけですよね?」
「そうだが… わかってないような気がするな」
「詩織、アンジェは知らないものを理解させるのは難しいということを言いたいのだと思う。右手がない人に右手の動かし方をイメージしてもらうのは難しいだろ? でも右手が動く情報を脳に与えて、右手を少しイメージできれば右手を動かすことはそれほど難しくない可能性がある」
「ないものはイメージするのは難しいということですか…」
「その話を説明したんだが、どうして千秋の説明でわかるんだ? 変わらないじゃないか…」
アンジェがブツブツ言っているけど、無視して…
「じゃ、千秋先生の病院で、目の見えない人に実験できますね」
「そうは簡単に行かない」
「どうしてですか? 千秋先生は病院で好き勝手できるんでしょ?」
「好き勝手はしていないぞ。高性能MRIは機密事項だから、実験のために持ち出せない。ま、持ち出すのも大変だがな」
「頭に被るだけなんですから、持ち出すのは簡単ですよね?」
「詩織、高性能MRIにはケーブルが付いているだろ? その先に何がある?」
「何がってコンピュータですよね?」
「そうだ」
「ネットで繋げば問題ないですよね?」
「詩織が、セキュリティをどう考えているのかわからんが、許可されいな。それに、遅延が許容範囲内の接続環境を病院につくることは難しいな」
「じゃ、救えないのですね…」
「いや、実験はできるぞ。ここには弱視の人も色弱の人も耳が聞こえない人もいるからな」




