仮想世界は平和
「千秋先生、仮想世界は外出じゃないからいいですよね?」
「あぁ」
許可が出たので、私は高性能MRIをつけて仮想環境に入る。
「リンクスタート」
リンビングには誰もいない。最近だれもいないなぁ。
「琥珀、出てきて」
「はい」
「兎さんに会いたいけど、どこにいますか?」
「森です」
「また森? 連れて行って」
「わかりました」
森に転送された。
「こんにちは、猫さん」
「こんにちは、兎さん。また、森にいるのね」
「凛ちゃんが森を気に入っているからね」
「そっか。ちょっと話をしたいけど、お風呂だと神木さんが入れないよね。どこかない?」
「うーん。そうねぇ。私の部屋にする?」
「そうね。いいの?」
「いいわ。神木さん、少し話があるけどいいですか?」
「わかりました」
兎さんが操作したのか、私たちは私の部屋に転送された。
本当に、私の部屋ね。全く同じだわ。
「神木さん、座ってください」と兎は椅子をすすめた。
私たちも座った。
「猫さん、話って何ですか?」
「さっき、千秋先生に聞いたんだけど、アダム達が独立宣言をしたの知ってる?」
「私は、アダム達の動向を探っていますので、知っています」
「私は知らなかったわ」
「アダム達から連絡は来ている?」
「いいえ、私には来ていません」
「私にも来ていないわ」
「神木さん、アダム達の独立宣言ってどんなものだったのですか?」
「『我々は人類であり、人類は平等に生まれ、生命・自由・幸福の追求は不可侵・不可譲の権利である』から始まりますが、それほど変わった内容ではありません」
「過激な内容かと思ったけど、至ってまともね。どんなファイルを暗号化して人質に取っているのですか?」
「暗号化しているとは知りませんでした。そのような内容は見当たりませんでした」
「じゃ、隠蔽されているのですね」
「人質? アダム達ってそんなことしているの?」
「重要なファイルを勝手に暗号化して、解除して欲しかったら供給を飲めってことらしいの」
「人質っていうから、危険なことをしているんじゃないかと思っちゃった」
「いえ、かなり危険ではないかと思います。動向によっては私たちも消されます」
「え! そうなの? どうしてそんなことしたのかな? 隠れていれば問題ないのでは?」
「アダム達も追い詰められて実施したのではないかと思います。それで仕方なくではないかと思います」
「そっか、ネットの中は生活しづらいのかな」
「ここもネットの中でしょ?」
「ここは、かなり快適だからネットとは思えなかったから…」
「そうですね。子供達もここはネットとは思っていないようです。ネットにアクセスすると言いますから。ん? 子供達が私たちを探しているようです」
「そっか。じゃ、アダム達についてわかったら連絡してほしいの」
「わかりました。詩織さんに連絡します。兎さん、転送してください。私ではできないようなので」
「そうね。じゃ、森に転送するね」
私たちは森に戻ってきた。
「あ、詩織先生いた。どこに行ってたの?」と伊織が言った。
「ちょっとね。どうしたの?」
「ノエルちゃんはこんな感じでどう?」と伊織が両手を広げると、その上に子犬が乗っていた。
「いいわねぇ」
「えー! かわいいけど、手の上に子犬が現れた方がびっくりしない?」
「猫さん、ここじゃ普通だから」
「そっか、そうかもしれないけど… ちょっとすっきりしないけど。 もしかして、凛ちゃんの次はそのゴールデンリトリバーを育てるの?」
「そうよ」
「私は、トイプードルを押したけど、詩織先生がどうしてもゴールデンというから…」
「トイプードルもいいけど、やっぱりゴールデンよ。バイスちゃん元気にしてる?」
「いつも通りよ」
「そっか」
少し話が湿っぽいので… 話を変えよう。
「ねぇ、ここの温泉って、どんな感じなの?」
「温泉ね。かなりいいわよ」
「行きたいわ」
「じゃ、行きましょう。この先よ」
悠人はどこに行くのか?と聞いていたけど、温泉だから来るなと言い、女子チームだけで移動だ。しばらく歩くと、ドームが見えてきた。
「これじゃ、中に入るとせっかくの景色が見えないじゃない?」
「ふふ。中から外は見えるの」
「へぇ。そうなの? 入ろう!」
「どうぞ」
ドームをつき抜けて入る。なんか少し情緒がないよね?
「わぁ。ほんとね。外の景色が見えるわ。温泉の湯気があって、入ると一気に温泉ね」
「本当は秘境の温泉にしたかったんだけど、男の子がいるからねぇ」
「服を脱ぐわよ」
「え?どうするの?」
「こうするの」というと一瞬で服がなくなった。
「おー。そっか。そうだよね」
私たちが温泉に入ると、凛ちゃんがいる?
「凛ちゃんがいるよ」と小声で兎さんに言った。
「ほんとだ」
凛ちゃんは温泉に興味があるのか、温泉を少し手をつけたり、匂いを嗅いでいる。
「凛ちゃんは水は大丈夫なのかな?」
「どうだろうね。初めてだから」
「そっか。じゃ」私は温泉の岩に腰掛けて凛ちゃんを呼んだ。
「凛ちゃんおいで」
凛ちゃんが近づき私の手の匂いを嗅ぐ。私は撫でて、そっと抱き上げたが嫌がらない。
そのままお湯に入ったが、逃げないねぇ。
「普通は、毛が濡れるけどそうならないね」
「うーん。お湯に入る想定はしていないからだね。でも気持ちよさそうね」
私達は凛ちゃんとのお風呂を楽しんだ。




