詩織の能力の仮説
「詩織は、達也がMRIのデータ取得量の変化と関係していると思うか?」と千秋先生が聞いた。
「どうだろう… ん? 神木さんは関係しているかは聞かないの?」
「公人か? 少なくとも昏睡状態から目覚めた後にMRIのデータ取得量は増えている。可能性は高いと思われるが、公人が亡くなっているので確かめようがないな」
「神木さんは… ややこしいな。公人さんって心拍の同期? 共振? ができたのでしょ? それと同じことが達也さんもできたってこと?」
「違うだろうな。達也は公人と同じ実験をしたが、まったく有効な結果はなかった」
「そっか」
「公人はいろいろな人で実験しているが、症状の緩和が発生した患者のMRIのデータ取得量の変化はなかった。変化があったのは詩織だけだ。達也と接触した人が多いが、公人と同じ現象の発生事例はない。しかし、詩織は達也と接触して目の前が真っ白になったのだろ? その後はMRIのデータ取得量が増えた」
「じゃ、達也さんとの接触以外に何か変化する要因があったかもしれないじゃないですか? 達也さんも他の人に接触してもMRIの取得量に変化ないし、私もいろいろな人と接触していますよ。千秋先生もそうだし、香織お姉ちゃんとも接触していますよ」
お父さんが、私は?という顔をしている…
「もちろん、お父さんともね。でも、MRIの取得量に変化ないでしょ?」
「全員は調べていないが、少なくとも達也と私は変化していない。しかし、変化の仮説としては考察する余地はあると思う」
「そうね…」
「どうした?」
「だって、今までは私の高性能MRIの取得データが大事だったかもしれないですけど、アンジェのようにずーっと高性能MRIをつけっぱなしで生活すれば人工脳モデルは作れるのでしょ? だったら、私を調べる必要ってないから、安全かなと思って…」
「アンジェの高性能MRIの取得データは大脳部分はそれなりに取れたが、深い部分になると極端に減る。脳幹あたりになると壊滅だな。それにな、バッテリが1時間程度しか持たないからずっとバッテリ交換しながら1週間近くだぞ? 普通じゃ無理だ」
「アンジェってそんな大変なことをしていたの? 夜はどうしていたの?」
「私ってショートスリーパーだし、その間は電源に繋いでいたよ。それに、デスクワークは電源があるしね。それほど大変じゃないよ」
「アンジェは寝相が悪いから電源が体に絡まって起きたと言っていなかったか?」
「たいしたことじゃない」
「話を戻すが、脳幹や小脳のデータを正確に取得するには、詩織が必須だな」
「でもさぁ。アンジェみたいに自分のデータを重ねれば新たな人格が作れるならいいじゃないですか?」
「ま、そうだがな…」
「歯切れがわるいですね。千秋先生のことだから、私の高性能MRIの取得量が多い理由がわからないと気になりますか?」
「そうだ」
「じゃ、公人さんが『共振』を起こせるが仮説でしたよね? だから患者への影響を与えられると… 神木さんはMRIの取得データは高いけど私ほどじゃない。私は『共振』が起こせないから患者への影響を与えられない。でも、MRIの取得データ量は多い。 関係ないじゃないですか?」
「詩織は別の能力があるんじゃないのかな?」とアンジェが呟いた
「別?」
「公人が『共振』だろ? MRIも共振だから、公人はMRIのデータ取得量は多くない。共振では増幅が大切だろ? 詩織が『増幅』だとすると、MRIのデータ取得量が多い理由になるんじゃないか?」
「アンジェ、詩織が目覚めた後にMRIデータ取得量が増えたんだぞ」
「昏睡から目覚めた時に『増幅』能力も目覚めたのだろ?」
「なんだ? そのご都合主義の仮説は?」
「仮説だからな」
「で、達也はなんだと言うんだ?」
「そうだなぁ。共振、増幅とくれば… あとはノイズ除去かな」
「なんか、もっともらしく言っているが、根拠はあるのか?」
「ない」
「そうだろうな」と千秋先生はため息を吐いた。
「でも、なんとなくあってそうな気がしないか? 詩織?」
「え? わからないわ…」
「はぁ。話はまとまったか? 詩織が『増幅』かどうかはわからんが、変な実験はしないように! 詩織の安全が第一だ」とお父さんが言った。
「はい。もちろんです」と千秋先生が答えて、この会は終了となった。




