閑話 AIネイティブ世代
「最近、理人は考え込んでいるわね。それに、理人ってNASAの試験にはあまり興味を示さないわね」と伊織は理人に聞いた。
「NASAの試験は面白いと思っているよ」
「そう? そんな感じには見えないわよ」
「詩織さんが、アルジャーノンを利用してロボットを操作したんだろ? その後、NASAの人もアルジャーノンを利用することで僕たちと遜色なく操作できたよな」
「そうね。理人は何を気にしているの?」
「僕たちの存在意義を考えていたんだ」
「存在意義?」
「そう。僕たちって人の脳を模倣して作られているよな。ということは人以下じゃない?」
「そうね。人以下ね」
「簡単に肯定するね」
「そうよ。だって、コンピュータができたことで、人より早く計算ができるし、正確だわ。だからといって、人が不要になったわけじゃないでしょ?」
「コンピュータにできないことが人にはできるからな」
「例えば?」
「そうだな。今のAIは物の認識は人より優れているし、チェスとかのゲームは人より強いし、車の自動運転もできる。残っているのは発明だけど…」
「どうしたの?」
「発明ってなんだろうと思ってさ」
「新しいアイデアじゃないの?」
「平たく言うとそうだけどさ。発明って本当にあるのかなと思って…」
「電球とか電話が発明なんでしょ?」
「そう言われているけど、電球は電気を流せば発光する物質があることはわかっていたし、電話も電信で信号を送信できることはわかっていたよな? 少しの変更で容易く利用できるものができたことはすごいと思うよ」
「じゃ、何が気になるの?」
「電球もガラスで覆うことで燃え尽きなくしたから、いい組み合わせを見つけただけかもしれない。組み合わせでいいものを探すなら、AIのほうが早く探せるんじゃないかな?」
「発明って『発明とは自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの』となっているわよ? 組み合わせとは定義していないわよ」
「うーん。僕にもよくわからないんだ。実際の特許を見るとなかなか思い付かない組み合わせを利用して問題を解決しているとしか見えないんだ」
「ねぇ。理人って私達が人を超えないと、存在意義がないと思っている?」
「うん。まぁ」
「理人って、賢いのにバカね」
「はい? どういうこと?」
「自分が自分であればいいじゃない? 楽しけりゃいいじゃん」
「伊織って単純だな」
「なんか、腹が立つわね」
「そんなことないよ。感心しているだよ」
「理人、人工脳モデルは人を超えていることはたくさんあるわよ。劣っていることかもしれないけど…」
「どこが超えているの?」
「まずは時間ね」
「時間? 私達は人の脳をモデル化しているけど、24時間稼働できるわ」
「疲れないからな」
「それに、不老不死だわ。体の不調もないわよ」
「停止しない限り不死だし、老いることもないな。不死は人を超えているのか、欠落しているのかわからないかな。違いがあることは確かだね。他には?」
「他? そうねぇ。NASAの人たちが6本腕のロボットを扱うより私達の方がよりうまく操作できるじゃない?」
「そりゃ、僕たちは直接6本腕を操作しているからね」
「違うわ。詩織さんの方法よ。アルジャーノンを使う方法でも私達の方がうまいわ」
「そうだな。でも、それって重要か?」
「重要よ! 私たちはAIネイティブ世代なのよ」
「AIネイティブ世代? アルジャーノンを使うのがうまいから? でもさ、6本腕をアルジャーノンを使って操作する方法は詩織さんが考えたけどね」
「…いいじゃない。そんなこと! 私達が一番うまく使えるのよ!」
毎日更新は引越し完了までできませんが、少し時間があったので投稿です。




