アンジェとの子作り計画
千秋先生が「はぁー」とため息を吐いた。
「アンジェ、日本語は不慣れかもしれないが、言葉に気をつけろ」
「ん? 何かおかしいか?」
「詩織もアンジェも女だぞ」
「そんなことはわかっている。人工脳モデルをつくるんだよ」
「人工脳モデルは初期データが詩織以外作れない。どうするつもりだ? もっと具体的に言え」
「詩織の1日目のモデルを利用する」
「それでは起動が失敗したぞ」
「あぁ。知っている。神木君は2日目のモデルだからな。だが、あえて1日目のモデルを利用して、そこに私の高性能MRIの結果を上書きする。私の高性能MRIの取得データ数が問題だが、詩織の1日分のデータ量に匹敵する分とすれば、子供達と同じになる。ほら、詩織と私の子供じゃないか?」
「そういうことか。詩織とアンジェだと効率は100倍は違うぞ。100日かかる」
「いや、詩織の1日のデータ取得時間は3時間だ。同じ3時間ではなく、一度にもっと長く取得すれば断片が少なく効率を上げることができる。24時間のずっと取得すれば2日程度で問題ないかもしれない」
「睡眠時も取るのか?」
「寝ないつもりだったが、寝てる間も脳は活動しているから、寝ていてもいいのか…」
「よし、じゃ今日から取得するぞ」
「詩織はいいのか?」
「面白いじゃないですか? アンジェのMRIの結果を入れると英語で喋るのか日本語で喋るのか気になりますし…」
「バイリンガルになるかもな。面白い! 明人! 設定を頼む」
アンジェはコントロールルームに駆けて行った。
「アンジェ、明人君は私の召使だぞ、勝手に使うな」
「千秋先生、怒るところはそこですか?」
千秋先生が真顔で「詩織をNASAによこして欲しいと言われていることを知っているか?」と聞いてきた。
「はい、沙織お姉ちゃんから聞きました」
「どうするつもりだ?」
「まだ答えが出ないです」
「人工脳モデルはNASAよりここの方が設備が整っているが、NASAの方が安全だが施設から出れない可能性がある。詩織がNASAに行くなら私も行く」
「どうして、千秋先生もついてきてくれるのですか?」
「理由は2つある。1つは詩織がいると研究が進む。もう1つの理由は詩織が心配だからな」
「今のところ、美味しいケーキ屋がフロリダにはないそうだから、行きたくはないです。見学ならNASAに行きたいですけどね」
「そうか、わかった」
「ところで、千秋先生。アンジェにはどこまで話しているのですか? 全部じゃないですよね?」
「ふふふ。現実世界の神木君が詩織を起こしたことは言っていない」
「千秋先生。悪巧みの悪役になっていますよ。アンジェには話さないように気をつけます」
「そうしてくれ。アンジェは私といる時が多いから詩織と擦り合わせができなかったんだ。詩織の勘が良くてよかったよ」
「それはどうも。それ以外はありますか?」
「アンジェは人工脳モデルの始まり方に興味を持っているので、いずれ神木君にも注目すると思うがこればかりはわからないな。今は詩織との子作りに興味が移っているから当面は問題はない」
「千秋先生、私との子作りって、言葉遣いに気をつけてください! 香織お姉ちゃんが聞いたら、お取り潰しですよ」
「そうだな。香織は怒るな。アンジェには注意しよう。一ノ瀬のおじさんが聞いたら倒れそうだ」
「そうですよ。お父さんには絶対にダメです。…千秋先生、不思議だったのですが、男性と女性では脳が違うという話を聞いたことがあります。兎さんは女性だし、神木さんは男性でしょ? 子供達は最初に与えたアバターの性別でしょ? 脳の形は問題じゃないのですか?」
「脳についてはわからないことが多いし、性差についてもわからないことが多い。脳の形は個人差があるという感じだから、本人が男性と思えば男性だし、女性と思えば女性だろう。少なくとも彼らは自分でアバターを選んでいるからな。あ、兎だけは別か? 本人が変えていないからいいのだろう」
「そうですね。脳は同じでも育ち方?でそれぞれ個性がありますしね」
「颯人達はみんな違うな。だが、アバターに引きづられたのかもしれない。途中から性別を変更した子はいない。外見は内面に大きな影響を与えているのかもしれない」
アンジェの声がスピーカーから聞こえてきた。
「千秋、高性能MRIのヘッドセットでデータを無線で転送できるようにしたから実験に付き合ってくれ」
「アンジェは高性能のヘッドセットをつけたまま生活するつもりか? まったく…」
と言いながら千秋先生はモニタールームに戻って行った。




