アンジェの調査 その3
仮想環境から抜けると、隣のモニタールーム?から千秋先生が飛び出してきた。
「詩織、手足の痺れとか違和感はないか?」
「ないです」
「詩織と兎がピアノの連弾をしただろ? 詩織のMRIの取得データと、兎の脳のデータがシンクロしていた可能性があるとアンジェが言ったんだ」
「同じピアノを弾いていたのだもの、シンクロして当たり前ですよね?」
アンジェがいつの間にか横にいて、チッチッチと言って、人差し指をたてて横に振った。
「違うな。私は詩織をずっとモニターしていたんだ。詩織がピアノを弾くとかなりの場所が活発に活動を開始した。曲を聞いているみんなも脳の活動に変化が発生した。脳の活動への変化の傾向は同じだったが、詩織と兎の脳の活動が一番シンクロしていた。それを確認するため、詩織と兎の連弾と、詩織と悠人の連弾をするように言ったんだ。その結果は驚くほどで私を声を上げそうになったんだぞ!」
「シンクロしていたんでしょ?」
「よくわかっていないな。詩織は現実の脳だ、兎は人工脳モデルだぞ。それがシンクロするなんてどういう理屈だ?」
「千秋先生はアンジェに兎のできた経緯を教えたのでしょ?」
「あぁ。高性能MRIの結果を人工脳モデルにコピーしたと教えてもらった。詩織以外には難しかったこともな」
「じゃ、私と兎さんは同じなんだから、シンクロしてもおかしくないでしょ?」
「千秋、詩織はどいう頭の構造をしているんだ?」
「アンジェ、詩織の言うことは正しいかもしれないぞ」
「どういうことだ?」
「詩織は直感で正しいと思っていて、間違っていたことがない」
「そうよ。私が正しいと思ったんだもの。正しいわ」
「は? じゃ、詩織に聞けば正解がわかるのか?」
「アンジェ、そう単純じゃない。詩織が『正しいと思うこと』が大切なんだ。その証拠に詩織の思いつきで振り回されているが、ここの研究はは一気に進化した」
「それが理由か?」
「他にもあるが、そうだ」
「じゃ、詩織と悠人は同じじゃないからシンクロしなかったと言うのか? 悠人も詩織のコピーなんだから、悠人も詩織じゃないのか?」
「アンジェ、悠人は悠人でしょ? 私じゃないわ」
「詩織と悠人は別人格で、詩織と兎は同一人格なのか?」
「人格? 私と悠人は別人格だわ。私と兎とは個としては別だけど、同じだわ」
「詩織と兎は同一人格じゃないが、同じ? 双子ということか?」
「双子ねぇ。双子は別人格でしょ? 私と兎さんは双子みたいなものだけど… そうねぇ、双子以上、同一人格未満かな」
「ほう。詩織は、兎が今何しているかがわかるのか?」
「わからないわ」
アンジェと千秋先生は考えている。
すると、アンジェはモニタールームに戻って行った。
千秋先生は顔を上げて「では、詩織と神木は別人格か? 双子か?」
「別人格よ。だけど、私に近いわ。難しいわ。一部かな」
「一部?」
「そう言う感じとしか言えないわ」
「それは、神木君が詩織を昏睡状態から起こしたからか?」
「どうかな? わからないわ。でも、神木さんの人格が出来上がった時、神木さんだと思ったんです」
「そう言えば、詩織は最初っから神木君は本物だと思っていたな。でも詩織の一部か… 神木君が詩織を昏睡状態から起こした際に、詩織と融合?したから一部と思っているのか? 詩織の脳をコピーしてできた神木君は詩織の中の神木君の部分が色濃く出たのか?」
「うん。イメージとしてはそんな感じな気がする」
「そう言えば、初めて詩織を神木君と真織に合わせた時、真織とは初めての会話をしたが、神木君とは初めてじゃない会話だったな」
「そうだったかな? はっきり覚えていません。真織ってどうしていますか?」
「停止状態だ」
「そうですか… どうしてですか?」
「今の子供達に合わせると、物理的な環境があれば人格ができるかという試験に余計な外乱となる可能性がある」
真織は可哀想だなと思っていると、アンジェが戻ってきた。
「詩織、私と子供を作ろう!」
「はい?」




