疑惑(後編)
9時に千秋先生が来た。
千秋先生にお茶を勧めたが、「時間がないから、移動しながら説明する」と言われた。早速、黒塗りのバンに香織お姉ちゃんと乗り込んだ。
「千秋先生、今日は何をするんですか?」
「色々な場所を見たり、人に会ってもらう。その際に記憶にあるかどうかや感じたことを言ってもらう」
「もしかして、神木さんに関連する場所や人に会って記憶があるかどうかを確認するのですね」
「そうだが、ダミーも混ぜているらしい」
「らしい?」
「手配は全て明人君に任せたので、私はどれが神木君に関係する場所や人なのかは知らない」
しばらくすると車が止まり、河野さんが「ついてきてください」と言った。
会議室っぽい部屋に入ると、プレステのようなゲームコントローラとイヤホンが渡された。
「イヤホンから、質問が流れます。YesならR1ボタンを押し、NoならL1ボタンを押してください。どちらでもない場合は、⚪︎印のボタン押してください」
R1ボタン、L1ボタンが誰でも知っているかのように説明しないで欲しいなぁ。
「あのう、河野さん、⚪︎印のボタンは書いてあるからわかりますが、R1ボタン、L1ボタンをってどれですか? 誰もが知ってる前提で話さないでください」
ボタンを指し示してR1、L1ボタンを教えてくれた。
「ここでは、人と会ってもらいます。例えば、私が入ってきたとします」すると、河野さんがPCのキーをクリックすると、イヤホンから「この人を知っていますか?」と質問が流れてきたので、R1ボタンを押した。
「全てイヤホンの指示に従ってください。指示以外は極力話をしないでください。問題ないですね。では、始めますね」と言い、河野さんは部屋を出た。
すると、40代?のおじさんが入ってきて、椅子に座った。
イヤホンから、『この人を知っていますか?』と聞こえてきた。 NoなのでL1ボタンを押した。
すると、相手の人が「おはよう」と言った。相手の人もイヤホンで指示を受けているようだ。
「おはようございます」と答えた。
イヤホンから、『この人を知っていますか?』と聞こえてきた。声で変わるかってこと? NoなのでL1ボタンを押した。
おじさんは無言で部屋を出た。
人が入ってきては、答える作業をした。5人が終わった時点で、千秋先生、香織お姉ちゃん、河野さんが入ってきた。
「これで終わりですか? 全員知らない人でしたよ」
「場所を移すので、車に乗るよ」と千秋先生が言った。
移動先は城東消防署で、車を降りると変な感じがした。懐かしい?
会議室に通されると、さっきと同じように人の確認作業をするようだ。
20代の人が入ってきた。消防署の署員かな?かなり運動している感じがする。
イヤホンから、『この人を知っていますか?』と聞こえてきた。知っているような気がするけど、確信はないので、⚪︎ボタンを押した…
他の人は全て知らない人だった。
次は葛西消防署で、部屋に入ったが懐かしい感じはしなかった。また人の確認作業… 全ての人が知らない人だった。
疲れた…
「千秋先生、まだ続くんですか?」
「そうだね… あと一ヶ所にしようか? 明人君聞いたね」
「わかりました」
しばらくすると、車は足立区の天王公園に止まった。なんか見覚えがある公園かな。
「この公園は来たことあるよね?」
「…そうか。少し降りてみるか?」
公園内を少し散策した。滝が作られており、やっぱり記憶にあった。
何か思い出せそうだけど、わからない感じがした。
ふと、視線を感じ、香織お姉ちゃんの手を掴んだ。
香織お姉ちゃんも強く握り返してくる。
「車に戻りましょう」と香織お姉ちゃんが微笑んで言った。
車に戻ると、「千秋先生。今日は終了で家に戻ります」と宣言した。
車が走り出すと、「香織、どうした?」と千秋先生が、聞き出した。
「誰かわかりませんが、監視されていました」
「わかった。調べさせよう」
後は何の会話もなく、家に着いた。
千秋先生は「明人君と私は映像を解析して何者だったか探る。香織も仕事をしろ。何者か判明するまで、詩織はトレーニング以外の外出は禁止。トレーニングもSPを増やせ」
「わかりました」




