アンジェの調査 その2
私達は音楽室に移動した。
小織:「詩織さんのピアノは初めて聴きます! 何を弾いてくれるのですか?」
猫:「そうねぇ。華やかなのがいいわねぇ。テクラ・バダジェフスカの『乙女の祈り』なんてどう?」
小織:「知らないわ。楽しみ!」
猫:「有名な曲よ。弾くわよ。でも指ならしで少し触ってからね」
私は、ハノンの曲を少し弾いた。うん。指も思い通りに動くし、音も問題ないわね。
ここのピアノの音の広がりっていいわ… さすが兎さん。調整はバッチリね。
私は一息つき手を構えて、テクラ・バダジェフスカの『乙女の祈り』を弾いた。
小織:「音がシンプルで同じパターンが多いのにいい曲ですね。テクラさんの別の曲はないのですか?」
猫:「知らないわ」
伊織:「19世紀の中頃のポーランドの作曲家らしいわよ」
悠人:「19世紀中頃だったら、ショパンやリストだよな? なのにシンプルって不思議。詩織さん、別の曲を弾いてよ。ちょっと派手なの」
猫:「何がいいかなぁ。適当に何曲か弾くね」
藤井風の「花」と「やきらり」を弾いた。
兎:「私も弾きたくなっちゃった。猫さん私と連弾しない?」
猫:「いいわね。何がいい?」
兎:「レ・フレールの「空へ」がいいんじゃない? 派手だし。悠人が好きなジャズっぽいところがあるし」
猫:「難しいけど… よし、弾こう!」
私達はレ・フレールの「空へ」を弾いた。タイミングもばっちり! 次どうしたいのかが伝わってくる! 不思議な感じだけどいいねぇ。
兎さんは、自分の分身だから?
猫:「兎さん、すごくよかったわ。なんか兎さんと一体になった感じ」
兎:「そうね。なんか自分の手が4本になったような気がしたわ」
手が4本か… そうねと思っていたら、アンジェの声が聞こえてきた。
『悠人と詩織で連弾をしてくれ』
猫:「え? 悠人と? いいけど、私は悠人のレベルも何が弾けるかも知らないわよ」
兎:「Take The "A" Trainは? 悠人は弾けるでしょ?」
悠人:「弾けるよ」
猫:「わかったわ。でも、私は左ね。私がついていけなかっても成立するだろうしね」
悠人が軽く「A列車で行こう」を弾いて、「このぐらいのリズムで」と言ったので、私は「いいわ」と言った。
悠人は軽やかな指遣いでピアノを弾いていく。私は悠人に合わせて音を足していく。
悠人はさらに跳ねるように音を足す。私も悠人に合わせる。
主旋律が外れると思ったが、悠人は上手く主旋律を弾く。
あっという間に終わってしまった。
猫:「悠人はうまいわね」
悠人:「詩織さんが合わせてくれたので弾ききれました。ありがとうございます」
猫:「こちらこそ。ありがとう!」
『次は子供達で連弾はできる?』
悠人:「無理じゃないかな?」
伊織:「無理ね」
猫:「どうして?」
小織:「レベルが違いすぎるわ。私達の中で悠人が一番うまいの。私たちじゃ合わせられないわ」
猫:「じゃ、悠人以外の人で合わせてみれば?」
小織:「練習しないと無理です。逆にどうして悠人、詩織さん、詩織先生は連弾を弾けたのですか? 練習していたのですか?」
猫:「一緒に練習? したことないわよ」
悠人:「ノリだよ。もっと別の楽器があったらいいのにね…」
兎:「そうねぇ。バイオリンやギターなんかもいいかも、ドラムも欲しいわね」
『兎さん! そんなの無理ですから!』と河野さんの声が聞こえてきた。
兎:「調整が難しいけど、なんとかなるんじゃない? 私、ある程度なら演奏できるし」
『兎さんが演奏できる、できないじゃないです。『わ・た・し』が用意できないのですよ。ストラディバリウスの構造なんてわからないし、カエデ?の木振動とかも関係するんでしょ?』
兎:「よく知っているじゃないですかぁ」
『縦笛もまだ実現できていないのですよ』
兎:「あ!、そうだった。河野さん早く実現してくださいよ! 学校と言えば縦笛です!」
猫:「こうやって、進歩したのね」
『詩織さん違います! 「こうやって、無茶振りされていたのね」が正しいです』




