情報収集
私は、どのような契約になっているのかわからないので、アンジェへの説明は千秋先生に任せて家に帰って、お父さんの帰りを待った。
「おかえりなさい。お父さん、沙織お姉ちゃん」
「ただいま、詩織。待たせたね。今日は話があるんだろ?」
「今日は早いね」
「詩織がお父さんを待っていると聞いたからね。何か話をしたいのだろ?」
「ええ。今日、人工脳モデルの共同開発でNASAのアンジェリーナが千秋先生のところに来たのを知っているわよね?」
「あぁ。知っている」
「どうして教えてくれなかったの?」
「10時に内閣情報室とJAXAで話がしたいと緊急呼び出しがあって、13時に会議をして整合ができたのが15時だぞ。知らせる時間がなかった」
「え? アンジェと会ったのは15時すぎだと思うから、アンジェは生命科学室に15時に居たと思うけど…」
「そうだろうな。いろいろな脅しがあったからな」
「脅し?」
「詳しくは言えないが、通商に関することでの圧力がどうのこうのということだ」
「すごい話ね… 人工脳モデルをNASAに公開しても問題ないの?」
「NASAとの取引拡大、光量子チップとその関連設備の独占販売、各種特許の成立を優先してもらうことで手を打った」
「沙織お姉ちゃん、それで問題ないの?」
「どうして、詩織はお父さんに聞かずに、沙織に聞くんだ?」
「だって、財務は沙織お姉ちゃんが握っているのでしょ?」
「まぁ。そうだが…」
いじけるお父さんを無視して沙織お姉ちゃんが「取引拡大で数百万ドル増が10年ほど続くことは確定よ。光量子チップ関連の5年後の予想は1億ドルから100億ドルと幅が大きいからわからないわ。でも市場を取れるから問題ないわ」と言った。
「1億ドル? 円じゃなくドル?」
「そうよ。ドルよ」
「ちょっとすごい金額じゃない?」
「量子コンピュータとしても活用できるし、労働者の代わりができることがわかっているから、活用範囲の想定を考えると控え目よ」
「私は詩織の重要度が高いことがわかると、詩織が危険にさらされるリスクが上がることを気にしている」
「危険なの?」
「NASAは詩織のことは非公開にすると契約しているのが、情報漏洩のリスクがないわけじゃない」
「そんな、契約もしているのね…」
「私は詩織が千秋先生とNASAに行く方が安全だと思うけど、どう?」
「おい! 沙織、私は反対だと言ったろ!」
沙織お姉ちゃんはお父さんの声なんて気にせずに話を続けた。
「沙織の安全を考えるとNASAの方がいいと思うの」
「え? 私がNASAで何するの? 役に立たないと思うよ」
「人工脳モデルの実現には詩織が必須なのよ。役に立たないわけないでしょ?」
「そうなの?」
「おい! 詩織がNASAに行くのは、は・ん・た・い だ! 聞いているか? 反対だぞ!」
「問題はNASAというかフロリダって結構ガサツなのよねぇ。ニューヨークみたいに美味しいケーキ屋もないしね」
「フロリダにはないの?」
「そうだぞ。フロリダより日本の方がいいぞ」
「お父さん、さっきからうるさいわよ。詩織と話ができないじゃない!」
「いいじゃないか。話に参加しても!」
「はぁ。二人とも会社でもそんな感じなの?」
「そんなことはないわ」
「沙織は私にはきついからこんな感じだな」
「ちょっと考えてみるわ」
「そうね」
「おやすみ、お父さん、沙織お姉ちゃん」
「おやすみ、詩織」
「もう話は終わりか… おやすみ、詩織」
私は部屋に入り、ベットに倒れ込んだ。
NASAか… 見てみたいことは見てみたいけどねぇ。




