千秋先生の本音
「こんにちは、詩織さん」
「こんにちは、河野さん。A国で発表されたAIの調査は終わったのですか?」
「あれ? 詩織さんがなぜA国でのAIの発表のことを知っているのですか?」
「今朝、私がここに来ましたが、河野さんが調べていて私に気づかなかっただけですよ」
「すみません。気づかなくて」
「いいですよ。A国で発表されたAIはすごいですか?」
「人ができることはほとんどできるって感じですね」
「すごいですね」
「すごいですが、ここの人工脳モデルの方がすごいですよ」
「自慢ですか?」
「いいえ、客観的に見てもすごいんですよ。確実に20年は先に進んでいます」
「…午前に千秋先生から聞いたような…」
「本当ですよ。いろいろ話も来ているんですけど、言えないだけです」
「いろいろ?」
「いろいろです。言えないのが残念ですが…」
「例えば?」
「言えないです」
「ま、いいや。じゃ、T国の攻撃は人工脳モデルが対象だったのですか?」
「そうです。あ、千秋さん」
千秋先生が入ってきた。
「詩織、来ていたのか。明人君、油を売っている時間はないぞ。アルジャーノンが使ったAPIと利用方法の調査は終了したのか?」
「まだです…」
「千秋先生、どうしてそんなに急ぐのですか?」
「アルジャーノンは神木君に指示をもらう代わりに利用できたんだぞ。いちいち神木君に聞く必要がないなら、人と同じ判断を24時間いつでも即時に回答できるようになる。利用価値は膨大だ」
「何に使うのですか?」
「アルジャーノンが問い合わせに使ったように、利用できる」
「詩織さん、AIが人の脳を使うのですよ。人がAIを使うのと全く逆じゃないですか。興味深くないですか?」
「はぁ、そうですか…」
「あれ? 反応が薄いな…」
「だって、アルジャーノンから見たら、使えるものがあったから使っただけですよね?」
「そうなんですけど… 本当に画期的なんですよ…」河野さんがブツブツ言っているけど、無視!
「千秋先生、神木さんの脳を使う必要なんてないと思いますけど… 問い合わせに回答できるAIを作ればいいんじゃないですか?」
「詩織の言うように、問い合わせに回答するAIを組み合わせると同じことができる。しかし、アルジャーノンは大規模言語モデルで、神木君は人工脳モデルだ。同じモデルより別モデルを組み合わせた方が未知の問題への適用能力が高い」
「なるほど… 多様性が必要ということですか…」
「詩織さん、多様性は大事ですよ。大規模言語モデル、人工脳モデルと後一つ考えて、Melchior、Balthasar、Casperと名付けますか? 東方の三博士になるし…」
「明人君、Melchior、Balthasar、Casperが三博士かどうかもわからないし、どうでもいい。早くしないと、来週のデモに間に合わない」
「千秋先生、何かあるんですか?」
「NASAとJAXAにデモを行う」
「NASAって、ロケットを飛ばすNASAですか?」
「そうだ」
「NASAは何に使うのですか?」
「それはまだわからないが、人の代わりに宇宙で作業ができる」
「ロケットの安全性に疑問があるからですか?」
「それもあるが、長期間宇宙に滞在すると、放射線の影響があるから長期間いると寿命が縮むと言われている」
「え! そうなんですか?」
「人を送り込むには空気や水、食料だけでなく、人が生活するための空間も必要なので莫大な費用がかかる。交代も必要だから何度もロケットを打ち上げる必要がある」
「莫大な費用ってどれくらいですか?」
「さぁ。私も知らない。大きさにもよるだろうが、ロケットを1回打ち上げるのに100億円ほどかかると聞いたことがある」
「そんなにかかるのですか!? 気軽には行けないですね」
「僕は行きたくないですねぇ。宇宙ステーションは臭いらしいですし…」
「臭い? 宇宙は匂いがするのですか?」
「宇宙の匂いは知りませんが… 臭いのは宇宙ステーションですよ。宇宙ステーションは締め切った空間に人が生活するので、トイレや体臭の匂いがあるようですよ。最近は光触媒とかで軽減されているようですが…」
「えー! 換気は… できないですね… 行きたくないです…」
千秋先生が呆れた顔をしている…
「君たち、話はいいか? 人が生活するには大量の設備が必要だが、人工脳モデルだとその設備が不要だ。交代も不要と非常に安価に宇宙でのミッションができるというわけだ」
「それが理由ですか? じゃお金ですか?」
「いや、期待されていることは確かだが、ここの環境は私が自由に何でもできる。ここを継続するには成果が必要だ」
千秋先生は『自由に何でもできる』ここの存続が重要なのね、納得。




