目覚め
体が冷たい。でも、右手と首が暖かい。もっと熱が欲しい…
少し体に活力が戻ったようた。目を開けると男が私の右手を握ってベッドにうつ伏せで寝ている? うつ伏せで寝ているのは、私?と考えていると、猛烈な眠気を感じ、寝てしまった。
…
誰かが私を揺さぶっている? 眠いのに…
「詩織!』と呼ぶ声がする… 何度も聞いた声…
香織お姉ちゃん? 猛烈な眠気には勝てず、寝てしまった。
目を開けると、眩しい… 体がうまく動かない…
右手を誰かに握られている感覚があり、そちらを見ると、香織お姉ちゃんが私の右手を握って寝ていた。「香織お姉ちゃん?」と声を出そうと思ったが、うまく声が出ない。喉がヒリヒリする。
すると、ガシャンとガラスが割れる音がした方を見たが、よくみえない。メガネはどこ?と思っていたら、また、揺さぶられる… 誰? 香織お姉ちゃん? 耳がキンキンする。
「香織お姉ちゃん、何?」とやっと答えた。
香織お姉ちゃん、抱きつかないでよ。重いよ…
沙織お姉ちゃんも抱きついている? 重いって…
体を動かしたかったけど、うまく動けない。
「重いよ…」と言うと、香織お姉ちゃんと沙織お姉ちゃんの抱きつきから解放されたけど、覗き込んでくるし、頭は撫でるし、ちょっと鬱陶しい…
それが終わると、「少し起こそうか?」とか「お水欲しい?」とかの波状攻撃が襲ってきた。
少し起こしてもらい、水を少し口に含ませもらう。
メガネを要求し、メガネをかけてもらった。
お姉ちゃんズしかしないと思ってたけど、千秋先生がいる…
「千秋先生…」
「詩織、わかるか?」と少し不可解な顔をしている。
「はい。千秋先生」
「今の状態がわかるか?」
状態? 周りを見た。ここは、私の部屋じゃないけど、客間?
それに、病院みたいな機械があるし、点滴?のチューブが腕に刺さっている。
「家の客間で点滴されている? 私倒れたの?」
「詩織は熱を出して、1ヶ月ほど意識不明になっていた」
「1ヶ月!? 私の携帯は?」
クッションをお腹の上に置いてもらい、楽な姿勢でスマホの内容を確認できるようにしてもらった。
携帯の日付が… えーー! 2月20日! ってことは大学の期末テスト終わってるどうしよう。
Lineの未読の数字がとんでもないことに… メールも着信履歴もすごい数になってる…
どうしようって思っていると、千秋先生が何か言っている?
「詩織、詩織! やっと気づいたか。 現状が分かったようだな。高熱は覚えているか?」
「あ、そういえば熱出たよね。起きた時、右手を握っていたのは誰?私? あれ?でも香織お姉ちゃんが握っていたよね? あれ? うーん」
「詩織、大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
「そうか、今日はゆっくり休め。携帯は没収。今日は栄養ドリンクは飲んでもいいけど、少しな。胃が受け付けないから多く飲むともどすぞ。明日は9時に来る」と言い、まだ居るとごねるお姉ちゃんズを引き連れて千秋先生は部屋を出て行った。
やっと静かになったと思ったら、また眠ってしまった。
起きたら、香織お姉ちゃんと沙織お姉ちゃんがいて「おはよう!詩織! また起きないかと心配したよ」と言った。
「おはよう。香織お姉ちゃん。沙織お姉ちゃん。喉が渇いた」というと、栄養ドリンクと水を持ってきてくれた。
「もうすぐ9時だから、千秋先生が来るわ。千秋先生は時間に正確だから」と沙織お姉ちゃんが言った。
ほどなく、千秋先生は部屋に入ってきた。
「詩織、おはよう。ちゃんと起きたようだな。調子はどうだ?」
「千秋先生、おはようございます。体は重いけどそれ以外は問題ないです」
千秋先生はまだ疑っている表情で「そうか…」と答えた。
そして、計器を見て、「心拍も体温も問題ないね。食欲はどうだ?」
「あまりありません」
「そうか、少しずつ増やしていこうか。食べれるようになったら、トレーニングをするよ」
「運動は得意じゃないから、嫌だなぁ」と拗ねると、「いやでもさせるよ」と言われた…
千秋先生が私の顔をじっと見つめる…
「詩織は私のことを『千秋先生』と呼ぶが、前は『桃華先生』か『桃華ちゃん』だったよな?」
「そういえば、そうかも…」
千秋先生は香織お姉ちゃんと沙織お姉ちゃんの方を向いて「香織、沙織に聞きたいが、起きた後に詩織に何か変化はあったか?」と尋ねた。
「「ないわ」」と香織お姉ちゃんと沙織お姉ちゃんが答えた。
私は気になっていることを尋ねることにした。
「昨日、目覚めた時、男の人が私の手を握っていたような気がしたんだよね。その人って誰?」
香織お姉ちゃんが、「その話はもう少し元気になってからにしましょ。このままだと学校に行けないよ」と答えた。
「そうだね… 下期の試験を受けていないから、動けるようになって4月から取り返さなきゃ!」
「トレーニングを手伝うわ」
次の日、公園内を散歩。補助なしでは歩けない…. しかも、筋肉痛…
1ヶ月後には普通に歩けるようになり、少しジョギングができるようになるつもりだ。
目覚めた時の男の人が気になり、千秋先生が定期的に診察に来るたびに教えてとお願いしたが、教えてくれない…
3月10日、千秋先生が来て体調を確認し、問題ないから学校に行ってもいいがトレーニングは続けるようにと言った。
「トレーニングがこんなに気持ちがいいとは知らなかった。だから続けるよー」
千秋先生は少し思案して、質問をした。
「詩織、Macのノートを買ったらしいな」
「うん! Macは綺麗で可愛いよ」
「iPadを持っていただろ?」
「iPadもいいけど、授業は文章入力が多いから、いつでもキーボードが必要になるじゃない? だったらキーボードがついているMacの方が便利だもん」
「キーボードはなぜ英語版にした? Windowsは日本語キーボードだったろ?」
「うーん。英語版の方がスッキリしているような気がしたからかな」
また、千秋先生は少し思案して、質問をした。
「まだ目覚めた時の男の人が気になるか?」
どうしても気になると答えると、千秋先生はノートPCを開き映像を流した。
映像には、香織お姉ちゃんと、男の人が部屋にいる映像だ。私が寝ているから意識不明の時の映像かな。この男の人! そうだ! この人知ってる!
「千秋先生! 私この人知ってる!」
「彼は、神木公人だ。詩織と神木君の面識はない」
「どうしてですか? 街角ですれ違っているかもしれないでしょ?」
「神木君は私の部下で、採用時に経歴は『全て』調べたから、面識はない」
うーん。でも知ってるよ。
音声はないようで、香織お姉ちゃんと神木さんが何やら話して、神木さんが私の右手を握り、私の首筋に手を伸ばして脈をとっている?
「そう! これ知っている! 私の体がすごく冷たかったから、右手と首が暖かくて、もっと暖かくなりたいって思ったんだよね」
千秋先生は映像を止めた。
「続きは?」
「ここで終わり」
「神木さんが目覚めさせてくれたんだよね? 神木さんにお礼を言いたいけど、いないの?」
「いない?」
「もしかして、神木さんって亡くなったんじゃ…」
「…そうだ。なぜそう思った?」
「だって、映像の先を見せないもん」
千秋先生はノートPCを閉じて、「詩織は明日、私の仕事に付き合ってほしいけど、いいか?」と言った。
「はい。もちろん」
「明日、9時に迎えに来る」と言って千秋先生は出て行った。




