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兎のイメージ

 ニャン吉と戯れあっていると、千秋先生が声をかけてきた。


「詩織、もう一度仮想環境に入ろう」

「どうしてですか?」


「兎の行動を知るには詩織の意見があった方がいいからな」

「何かしたってことですか?」


「らしいが、よくわからないので調査する。隣の部屋で仮想環境に入るぞ」

「わかりました」


 私と千秋先生がヘッドマウントディスプレイをかぶり、河野さんが外部から見ることになった。


「「リンクスタート」」


 リビングルームには全員が揃っていた。私がニャン吉と戯れあっていた間に何かあったようだ。

 揉め事?


「神木君、詩織は状況を知らないので、説明をしてもらえるかな?」

「わかりました。攻撃により仮想空間への計算機資源の割り当てが減ったためアルジャーノンが使用不能になりました。その際に、理人と悠人が森に取り残されたました。そのとき、悠人は連絡のためにメールを送信しました」


「え? 普通じゃないですか?」

「森には端末がありません」


「メニューを呼び出せばいいじゃないですか? じゃ、問題が解決ですね」

「あれが、メニューだったのですね… みなさんが現実世界に戻った後、私たちは理人がどのようにメールをしたのかを話し合っていました。兎さんと颯人と私はメニューの存在を知らなかったので…」


「あれ? そうなのですか… 私がログアウトするときに使っているので知っているかと思っていました」

「あの手を動かす動作ですね。私は何かの儀式のような手順かと思っていました」


「儀式って… メニューは見えているなら儀式には見えないですよね?」

「私たちにはメニューが見えていません」


「えー! そうだったのですね。だから、メニューの存在を神木さんは知らなかったのですね。じゃ、理人はどうやって知ったのですか?」

「僕は小織に教えてもらいました。小織と伊織は一緒に詩織先生が家や家具を作るのを見て、メニューを見つけたらしいです」


 兎さんのことを詩織先生と言われると私が言われたようでちょっとややこしい…

 私はこれで問題は解決ねっと思っていたら、神木さんが話を続けた。


「ここで、疑問がありました。兎さんはメニューを知らなかったのです。その状態でファンタジーランドを作りました」

「え? 何が疑問なんですか? 琥珀がいればできますよね?」


「詩織先生が家具を作っていたときは琥珀がいませんでした。だから小織と一緒に何か秘密があるんじゃないか?と思って調べていたら、メニューを見つけたんです。私たちは詩織先生もメニューを使って家具を作っていたと思ったのですが、詩織先生はメニューを知らなかったのです。どうやって家具を作ったのか詩織先生に聞いたら、『イメージ』で作ったと言われました。でも私たちには『イメージ』がわからなかったので、千秋さんや詩織さんに聞けばわかるんじゃないかと思ったのです」

「『イメージ』ですか? 千秋先生わかりますか?」


「わからん。兎、実演できるか?」

「わかりました」


 兎さんはいきなり四角の箱を出して、変形させてタンスを作った。

 私は出来上がったタンスの引き出しを開けたり閉じたりしながら「すごいわねぇ。タンスね」と言った。


「兎さん、どうやって四角の箱を出したの?」

「白い箱と『イメージ』すれば出せますよ」


 兎の手のひらに立方体が出来上がった。私はそれを手に取って『イメージ』すればいいのね。ドラグスレーブを出る時の風やマントのたなびきの感じかな…

 私は立方体を兎に返して、手のひらを上に向けて『イメージ』したができない…


「 できないわ」

「千秋さんもできないですか?」と神木さんが聞いた。


「あぁ。私にもできない。明人君、聞いているだろ?どうだ?」

『わかりません』


 じっと見ていた理人が話かけてきた。


「詩織さんと詩織先生に質問があります」

「何かしら」


「詩織さんと詩織先生が同じアバターで名前も同じなのはどうしてですか? それが詩織先生だけが『イメージ』を使えることと関係しているのでは?」


 千秋先生が私を遮り話を始めた。


「猫と兎が同じ理由は教えられない。兎が『イメージ』を使えるのは別の要因だ」

 理人は納得できないようだが、「…わかりました」と答えた。


「神木君、『イメージ』について何かわかったら連絡をしてくれ」

「わかりました」


 私たちは仮想世界を抜けた。

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