兎の謎
仮想空間から抜けると、千秋先生がいた。
「千秋先生。子供達は光量子コンピュータで動いていることを知らなかったのですね」
「あぁ。私たちは教えていない。神木君や兎が教えなかったみたいだな」
「もっと現実世界と接続をさせた方がいいんじゃないですか?」
「どういう接続だ?」
「現実世界に出ることはできないから、現実世界の人と通話したり、チャットしたりかな」
「もう少ししてからかな。彼らは生まれてから1ヶ月ほどだぞ。知識としてはかなりあるので中学生から高校生というぐらいだな。しかしコミュニティは非常に狭い。山奥の秘境で育った子供のようなものだ。その子が東京に出すようなものだ。少しずつ慣らせる必要があるな」
「山奥の秘境… 確かに、秘境ですね」
「詩織さん、子供達の感覚だと、年に一度人がやってくるという感じだと思いますよ。それより、攻撃元は判明したのでしょうか?」
「T国だな」
「T国? 国が攻撃するのですか?」
「詩織さん、大国と言われる国には諜報機関がありますし、企業を隠れ蓑に使って攻撃もします。驚くことではないですよ」
「どうして攻撃するの?」
「どうしてって…難しいなぁ。自分じゃないから? 相手を知りたいから色々することが、相手にとっては、攻撃に見えることもありますよね? 例えば、子供が犬に戯れ付く場合、子供は遊びたいけど、犬から見ると叩かれたり雑に扱われたりするので攻撃に見えますよね?」
「そうですね。立場によって変わりますね」
「私は犬の立場で考えられるので、私が攻撃するなら見つからないようにします。こんなわかりやすい攻撃は絶対にしません。私はこんなわかりやすい攻撃をする意味がわかりません。隠してあったトロイの木馬を一つ使うことになるし、他のバックドアも潰される可能性が高くなります」
「じゃ、子供の立場で考えると、中がわからない箱があるので振ったり叩いたりするじゃないですか?今回もその可能性はないですか?」
「中がわからない箱って、ここのことですか? 確かに秘密機関ですけど…」
「うーん。どうだろう。ここは前からあるんでしょ? 中がわからない箱は仮想空間ということは考えられませんか?」
「そうかもな。光量子コンピュータは今までとは異なる動作なので、従来のウィルスは効かないから外部から見ると全くのブラックボックスだな」
「じゃ、安全ですね」
「いや、そうとは限らない」
「どうしてですか?」
「いろいろな攻撃に耐えたシステムは穴が少ないが、光量子コンピュータは攻撃されていないから気づいていない大きな穴があるかもしれない」
攻撃に耐えたシステムって、屈強な軍隊みたいな感じ?
それに対して攻撃されていないって、お嬢様?
お嬢様は教養があるけど、悪いイケメンに簡単に騙されるってこと?
なんとなくイメージできてしまった…
「光量子コンピュータってお嬢様で騙されやすいってこと?」
「まぁな。話は戻るが、子供達がメニューを呼び出して端末を利用しているという話があったので、端末がある教室以外での端末利用を調べたが、颯人以外にはアクセス履歴があった。わからないのが、兎だ」
「兎さんには琥珀がいるから琥珀経由で端末を使っていたのでしょ?」
「確かに兎は移動に琥珀を使っているが、建物や家具を作る際には琥珀を利用している形跡がない」
「仮想世界は仮想なんだから、イメージすればできるのでは?」
「詩織さん、イメージで建物や家具は作れないですよ」
「えー! そうなんですか!」
「無理ですよ」
千秋先生が考えている…
「どうしたのですか?千秋先生」
「…あぁ。詩織と兎は双子みたいなものということは、同じ考えをしていないか? 兎は詩織と同じようにイメージすれば建物や家具を作れると考えているとしたら?」
「…建物や家具を作るのに端末を使わないということですね。そんなこと…」
「アルジャーノンは神木君の脳を外部から使ったことがあるぞ」
「そっか、箱入り娘ということですね」
「そうだ」
「あのう。どういうことですか? 説明してください」
「アルジャーノンが賢すぎるのは何故か?ということがあっただろ。アルジャーノンが神木君の脳の開発用インタフェースを利用していた。同じように我々が思いついていない方法を利用している可能性がある」
「神木さんの脳を勝手に利用するのは良くないと思いますけど、仮想世界は問題ないのでは?」
「確かに実害はないが、バックドアがあるということだ」
「千秋さん、侵入用のバックドアとは限りませんよ」
「そうだな、侵入用とは限らないな」




