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第三十一話

 第八章





 この世界に来て初めて国王と謁見することが決まった。


 聖がオーウェンのプロポーズを受け入れたと、オーウェンの父親であるフィリップ国王に伝えられたからである。


 朝から身を清め格式高いドレスを着て準備をし、ようやく謁見の時間が迫ってきた。


(今思えば……私が召喚されたとき、国王はその場にいなかったもんね。どれだけ聖女を軽んじてるか、わかるってもんだわ)


 聖はオーウェンと護衛と共にすっかり歩き慣れた庭を通り、王城へ足を踏み入れた。


 ホールから階段を上がると、いくつかの広間があり、そこではこの国の主要な貴族たちがよく会議を行っている。その奥に聖もよく利用する書庫がある。


 廊下を歩く貴族たちはオーウェンと聖の姿を見ると、足を止めて恭しく頭を下げた。彼らはオーウェンが一緒だと話しかけては来ないのだ。


(私と聖女部隊だけだったら、上手く言いくるめられると思ってるんだろうな)


 聖が護衛と一緒にここを通るのは、書庫を利用するときと聖女の任務で転移陣を使用するときだけだ。


 そばにオーウェンがいないと、誰かも知らない貴族たちに囲まれる。聖女部隊が平民であることを知っているからだろう。


 彼らのほとんどは、第五騎士団の調査によって〝瘴気の発生は確認できなかった〟とされた領地を持つ貴族だ。


 瘴気の吹き溜まりが確認できなかったとしても魔獣は少なからずいるため、定期的に兵を派遣しなければならず金がかかるのだ。


 聖女の移動には必ず聖女部隊が付き添う。カントリーハウスに遊びに来たついでに魔獣の討伐を請け負ってもらえれば、という思惑があるのだろう。


「セイ? どうかしたか?」


「あ、ううん。なんでもない」


 さすがにオーウェンがいるところで聖に話しかけてくる強者はいない。そのことに安堵しつつさらに階段を上がり最奥の間に辿り着く。


 重厚な扉の前には近衛が立っており、国王の側近に控えの間で待つように言われた。


「聖女様、オーウェン王太子殿下。どうぞ」


 側近の後に続き、いくつかの扉を抜けて、ひときわ豪華な装飾が施された扉が近衛によって開けられた。


 聖は視線を上げないようにしずしずと歩き、オーウェンに倣いその場に膝をつき、頭を垂れた。聖女の召喚を決めたフィリップ国王に対しては腹立たしさでいっぱいだったが、自分がこの世界で生き残るためには仕方がない。


「面を上げよ」


「は」


 聖が顔を上げると、中央に置かれた椅子に、初めて会う国王が腰かけていた。


 周囲には宰相を初めとした上級貴族たちが並び、皆、和やかな顔をしていたが、その視線が感情とは真逆であることを聖だけは感じ取っている。


「セイ、そなたは私に膝をつく必要はない。この国のために働いてくれること、感謝している」


 フィリップ国王は感情のこもらない冷ややかな口調でそう言った。


「あ、は、はい。私に……できることでしたら、協力は惜しみません」


 聖はそれだけ言うのが精一杯だった。


「そうか」


 眉間にしわを寄せた国王の表情は非常に険しく、それなりに距離があっても威圧を感じる。オーウェンの年齢を考えると五十手前くらいだと思うが、歴戦の騎士を思わせる体格をしている。


(そういえば……陛下も第一騎士団の団長だったんだっけ)


 今のオーウェンと聖のように、前聖女と一番そばで護衛をしていた人なのだ。そして聖女を王妃として、聖女を殺す決断をした人。


(でも……どうしてだろう。陛下からは、いやな感情を受けない)


 フィリップ国王の側近、おそらく宰相、それに周囲に立つ近衛からは、こちらを蔑視する視線を感じるのに、国王からは同情的な感情を向けられているような気がする。


「オーウェン。セイから色好い返事をもらえたと聞いたが」


「はい。セイは王太子妃になる決断をしてくれました」


 オーウェンが言うと、周囲に立つ貴族たちからどよめきが広がった。全員が好意的な表情をしているのは、この国に聖女を縛りつけておけることが決まったからだろうか。


「そうか、では、国王フィリップ・グリニッジの名において、オーウェン・グリニッジとセイ・ヨシカワの婚約を認める。二人で協力しこの国に尽くすように。頼んだぞ」


「は」


 オーウェンが胸に手を当てて恭順の姿勢を示した。聖も慌てて頭を下げ、教えてもらったとおりに言葉を紡ぐ。


「謹んで承ります」


 聖が答えると、フィリップ国王は先ほどよりもやや表情を和らげて頷いた。


「下がってよい」


 国王の手の一振りで、婚約の奏上は終わった。背後にある両開きのドアが開けられて、退室を促される。謁見の間を出るまでずっと、いくつもの不躾な視線が背中に刺さっていた。


 扉の外に出るとほっとする。オーウェンの腕にそっと手をかけて、元来た廊下を歩いていくと、どうしてかオーウェンは玄関ホールに出る階段を通り過ぎた。


 奥の階段を下りて回廊を通ると、大きな扉の前に立つ二人の兵が姿勢を正し、片手を胸に当てた。


「離宮に戻らないの?」


 不思議に思い聞くと、オーウェンは優しげに目を細めて、聖の手を軽くぽんと叩いた。


「ここは王族の居住区だ。今日から聖の部屋はこちらになるからな」


 そして、ふいに聖の耳に顔を寄せて、そう囁く。


「……っ」


 オーウェンが聖と結婚するのは、異世界から召喚した聖女をこれ以上国のいいように利用させないためだ。彼はその目的のために、聖にずっと恋愛感情があるフリをしていた。


 もう聖はすべてを知っている。その上で彼に協力することに決めた。


 だが、それをわかっていても、香りを感じられるほど近い距離で接せられると、以前と同じように胸を高鳴らせてしまう自分がいる。


「そうなんだ、婚約者になったから?」


 動揺を隠して聞くと、当然のようにオーウェンが頷いた。


「あぁ、あの離宮は賓客用だからな。これからは俺の隣の部屋になる。もう荷物は運び込ませているし、片付けも終わった頃じゃないか……ここだ」


 エンベルトとカミラによって両開きの扉が開けられると、大きな窓が取り付けられ、天井や壁のあらゆるところに精緻な細工が施された広い部屋があった。

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