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第十七話

 立ち上がり伸びをすると、聖は読みかけの本を置いて壁際に立つディーナに視線を送る。


「出かけますか?」


 ディーナはわかりやすく目を輝かせた。出かけるのもいいが、それより誰かと話したい気分である。


「本を読んでたら眠くなっちゃって。話し相手になってくれない?」


「えっ、それ私でいいんですか?」


「もちろん。ここに立ってなきゃいけないって決まりはないんでしょ?」


「うーんまぁ、たぶん大丈夫です」


 微妙な返事に怒られやしないだろうかとハラハラする。が、もし誰かになにか言われたら、聖が無理を言ったと庇えばいいだろう。


「じゃあ、お茶を用意してもらうから、お話ししよ」


 聖はケリーにお茶の用意を頼む。しばらくするとカップと菓子を載せたワゴンを、ケリーが隣室から運んでくる。


「ねぇ、ケリーも一緒に座らない? 怒られる?」


「……セイ様がそうおっしゃるなら」


「ありがとう。じゃあ座って」


「はい」


 ケリーは三人分の紅茶を淹れて、聖とディーナの前に置いた。菓子は自分のタイミングで取れるように皿だけが置いてある。


 ケリーにも座ってもらい、聖が話の口火を切った。


「ありがとう。ねぇ、変なこと聞くんだけど、ケリーは貴族?」


「私は一応男爵家の一人娘なのですが、お恥ずかしながらかなり貧乏でして、ほとんど平民と変わらない生活をしております」


 お恥ずかしながら、と言いつつも、少しも卑屈さを感じさせない淡々とした口調でケリーが言った。


「私の周りが聖女部隊を含めて平民で構成されてるのって、なにか理由があるの? 二人は知ってる?」


 聖が聞くと、二人は顔を見合わせた。


 ややあって口を開いたのはケリーだ。


「あの、セイ様がいらっしゃる前に侍女の募集があったのです。しかし、聖女様はこの国で一番尊ばれる存在で、男爵家の娘が高貴な方の侍女に選ばれるなんて普通はあり得ませんから、私は当然応募もしませんでした」


「でも、ケリーが選ばれたんだよね? それはどうして?」


「わからないのです。私が仕事を探していたら、オーウェン様から声をかけられました。聖女様のお近くで働けることが嬉しくて、お給金もいいですし、その場でお返事をして決まりましたが、家族全員で首を傾げておりました」


「高貴な方……たとえば王族の周囲で平民が働くことは普通はないんだ?」


 そもそも聖女部隊が平民で構成されているのはどうしてなのだろう。


 やはりそこが気に懸かる。


「もちろんです。近衛は全員貴族ですし」


「それなら、聖女部隊である第一騎士団が平民だけってのも不思議ですよね~。あ、もちろん私はセイ様の護衛に選ばれて、めっちゃ嬉しいんですよ!」


 挙動不審げに手をバタバタさせてディーナが言った。


「そう言われると、そうだね」


 聖女はこの国で一番尊ばれる存在としながらも、王族と違い聖女の周りは平民で構成されている。それが、貴族からの侮蔑の視線に繋がるのだろうか。


「あ、でも、セイ様だけじゃなくて、前の聖女様の周りも平民が多かったみたいですよ」


「前の聖女様って今はいないんだよね?」


「えぇ……残念ながらお亡くなりに……」


 ケリーは眉を下げてテーブルに視線を落とした。


 なにも知らない自分が踏み込んでいい話題でもない気がして、亡くなった事情は結局聞けずじまいだ。


「どういう人だったか、二人は知ってる? なんかすごい魔力量の多い人だったってことは本に書いてあったけど」


「どういう人というか……前聖女様は王妃様ですよ。たしかに魔獣の被害に遭った町や村の民たちを助けて回ったという本を私も読んだことがあります」


「えっ!? 王妃様なの!?」


 ケリーの言葉に目を丸くする。


 前の聖女が王妃。ということは、オーウェンの母親ではないか。


 王妃が亡くなっているのは、王族の家系を勉強していたときに知ったが、まさか前聖女だなんて思いもしなかった。


「それって本当に?」


「えぇ。ご存じなかったですか?」


 ケリーとディーナの二人が目を見合わせた。


 どうやらそれはこの国の人にとって常識だったようだ。


 誰も彼も当たり前だと思っていることはわざわざ教えてくれない。現に聖が知らなかったことに対して二人は非常に驚いている様子だ。


「セイ様がいらっしゃる数ヶ月前にご病気で」


「そうだったんだ」


 オーウェンが口を重くするはずだ。けれど、自分の母親が前聖女だったのなら、それは教えてくれてもよかったのではないだろうか。


 この世界に聖女は存在しない。だから異世界から呼ばなければならない。ということは、王妃も異世界から召喚された人間なのでは。


(つまりオーウェンって、異世界人とのハーフ?)


 王妃から話を聞ければよかったが、亡くなっているのならそれは叶わない。王妃も聖と同じところから召喚されたのだろうか。それともまた別の世界からだろうか。


「でも、どうして平民なのかっていう疑問なら、わかる気がします」


 ディーナが人差し指を唇に当てながらぽつぽつと言った。


「どういうこと?」


「ほら、聖女様って第五騎士団が調査して、瘴気の吹き溜まりの可能性ありと判断した場所にしか派遣されないじゃないですか。だから、普段の魔獣の対応は領主が雇った兵士がしているんです。人里に下りてこないように目撃情報があれば森にも行ってました。で、その兵士をしている父親を助けてくれたのが聖女部隊だったんで、そのとき聞いたんですですよ。王妃様があまりに気さくな方で驚いていたら、王妃様のいた世界は身分差がないところだったからって。セイ様も同じですよね? だから普段は気楽に過ごせるように平民を配置したのかなって私は思ってました」


「あ~たしかに、堅苦しいのはいやかも」


 ディーナの言うことはもっともだと聖は頷いた。


 貴族としてのマナーがどれほど厳しいのかはわからないが、オーウェンから感じる高貴さがそれだとしたら自分には無理だし、常日頃からそういう人たちに囲まれたくもない。


「ねぇ、じゃあさ、貴族の人で聖女が嫌いって言う人はいる?」


「そんなまさかっ! あり得ません!」


 ケリーが首を横に振りながら、驚いたように口に出した。うそをついているとは思えない。ディーナも同意するように激しく頷いた。


「そうなんだ……」


 そうなると、王城にいる貴族たちの視線の意味がわからない。


(でも、たしかにさ。聖女を批判するってことは、亡くなった王妃様を批判するようなものだもんね。貴族とかよくわからないけど、普通はしないよね)


 聖個人が嫌われているとはやはり考えにくい。嫌われるほど関わりを持っていないのだ。彼らは表面上は聖女を崇めているため、なにか理由があって、聖女への叛意を巧妙に隠しているのかもしれない。


「セイ様、こちらに来てから誰かになにか言われたのですか?」


 ケリーは案じるような目をして口を開いた。自分の気のせいとは思わないが、それを口に出したところで、〝聖の人を見る目〟を知らないケリーからしたら信じがたいだろう。


「ううん、なんでもないよ。またいろいろと聞いてもいい?」


「もちろんです!」


 ディーナが嬉しそうに微笑みを浮かべた。


 二人が仕事に戻った後、オーウェンが持ってきてくれた前聖女である王妃の記録を読んだが、他者の視点で書かれたもので、書庫にある内容と大差なかった。



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