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雨降りの映画館 (四一)
「グーっ。」
…どうしたらいいんだ、こんなとき。言ってもいいのか?誰かのお腹がなった。
「…お腹、空いてるのか?」
オジサンは香里ちゃんを見た。香里ちゃんは顔を少し赤らめた。
「アタシじゃないわよっ!」
「オヤジは下を向いた。」
オジサンはオレの方を見て、それからもう一回香里ちゃんの方を見た。
「嘘つくな。」
「嘘じゃないッ!」
「あー、いえ…、あの、…すいません、ワタシです。」
オヤジ?…あ、香里ちゃんに気ぃ遣ってんのか?
「あ、いや…、あの、オレ…、すいません。」
オレ、なんだ?オヤジに釣られちゃったよ、おい…。オヤジ、下向いて、震えて…、笑うのコラえてる。
「…、フ、ハ…。」
「ふははははは!」
でっかい声で笑い出したのはオジサンだった。
「ハハハ!ハハハ!」
オレ、オジサンにまで釣られちまった。
「わっはっは!わっはっは!」
オヤジも、そしてついに、香里ちゃんまで笑いだして、狭いアパートの中、四人の大きな笑い声が響きわたった。
このときだって雨は降っていたんだろうに、オレたちの笑い声でちょっとも聞こえてこなかった。




