土砂降りの駅前(一五)
私はよっぽど怒った顔付きをしていたんだろうか。安野屋の出前持ち、とは最近は言わないか、とにかく出前を持ってきてくれた人はちょっとビックリした顔をしていた。この若いバイトの人、ウチに来るのは恐らく初めての新人だろう、は早々に気を取り直して、呼び鈴を鳴らすよりは前に準備しておいてくれた袋ごとの丼物を私に早々に渡した。いつもならプラスチックの容器に入れられたそれになんとも言えない侘しさを感じるのだが、おいしいことにも間違いはないのを思い出すところだ。
「全部で五千六百三十円になります。」
「ああ、はい。」
スマホで電子マネーで払うのにも慣れたものだ。決済完了を知らせる無機質な音声が家中に響く。
「ああ、ちょっと待って。」
バイトの人はちょっとビックリしていた。
「これ、どうぞ。」
私は玄関横の引き出しの一番下から袋入りの新しいタオルを取り出し、その袋を破って手渡してやった。彼の首回りはしっかり、しっとり、濡れていたから。大方、ヘルメットで頭は濡れないんだろう。
「あの、でも…。」
「景品でもらったものだから、気にしないで。」
「ありがとうございます。」
彼はタオルをマフラーのように首に巻き付け、また雨の中へ颯爽と出て行った。
普段の私ならこんなことはしない。私は洋一と話すのが嫌で、少しでも時間を潰したかったのかもしれない。そんな自覚はあった。




