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道化の庭園  作者: marvin
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第六話 動機

「フースークと口論を? そんな記憶はないのですが」

 困惑したガラハッドはバベルにそう答え、眉根を寄せて考え込んだ。一方のバベルは表情の読めない顔で、それでも僕らを責めるような声で、さらに言葉を付け加えた。

「内容までは聞き取れませんでしたが、あれは確かに君とフースークでした」

「それはいつのことだ」

 イーフリートがバベルに確認する。

「そうですね、確か茶会が予定されていた時間です」

 ようやく話が描いた道筋に乗っただろう。バベルは少し早口に答えた。

「そういえば、おまえは招いていなかったな」

 頬杖をついたアリスが不要な追い打ちを掛けたせいでバベルは少し涙目になった。いや、表情はよくわからないのだが。

「ガラハッドはまだ生きていた?」

 ララ・ムーンが訊ねる。

「もちろん死体と口論しているようには見えませんでした」

 バベルの口調は明らかに拗ねている。

「おかしいな、どうして記憶がないんだろう」

 ガラハッドはきょとんと首を傾げて僕を見た。その目は不安気に揺れている。

「君はどうだ、フースーク」

「ええと、よく憶えていない」

 正直に言うと、何となくそんなことがあったような気もする。どうにも直近の記憶があやふやだ。慌てて記憶を移したせいかも知れない。

「ややこしくなってきましたね」

 エフィモヴィクが肩を竦めた。

 ガラハッドが生きていたならエイリアスは繋がっていたはずだ。彼が口論を憶えていないのはおかしい。ただ、僕もよく覚えていないと正直に言ってしまった。二人の口論を見たと証言するバベルとは話が食い違ってしまう。

「どちらかが嘘を?」

 皆の目線はバベルとガラハッドに向いている。バベルは憮然と皆に言った。

「私が嘘を吐く理由がありますか? その後お二人は連れ立ってフースークのゲートに行ったように見えました」

 皆の目線はガラハッドと僕に移った。

「自分の領域に連れ込むなんて」

 ララ・ムーンの言葉には他意がある。

「仲がいいのね」

 木漏れ日のようなガラクティアの笑みには他意がないことを祈るばかりだ。

 こうして同じ庭園にいても、地球領主が互いのサロンを訪れることはめったにない。相互に利害が少ないのは僕くらいなものだ。ララ・ムーンの叱咤は身内の不用心と節度に欠けた行動を嘆いたものだろう。

「僕は特別なんです、ララ・ムーン」

 だが、ガラハッドは屈託のない笑顔を向けた。そういうところだぞガラハッド。

「フースークの遊園地にはずいぶん前から通わせてもらっています」

「ミドルアースと呼べ、ガラハッド」

 僕はふと口論と思しき記憶を掘り当てた。

「そういえば、あのとき君に勝手にミドルアースに入るなと言ったぞ」

「いつも行かせて貰ってるじゃないか」

 ガラハッドが驚て僕を振り返る。

「決められた時間だけだ、ガラハッド。それ以外は入ってはいけないと何度も君に警告したはず――」

 ああ、そうか。

 それでこんなことになったのか。

 なら、どうしてガラハッドは死んでしまったのだろう。

「整理しよう」

 イーフリートがもう一度遮った。

「ガラハッドが死ぬ前後、君たちは扉の間で一緒にいた。二人はどうやら口論し、フースークのゲートを潜り、記憶をなくした」

「ああ、いえ、記憶は――」

「どうして二人ともお茶会に来ようと思わなかったのかしら?」

 シーダが頬を膨らませて言った。

「君への手土産を忘れたのではないかな」

 ジャックの抱えた髑髏が性懲りもなく乾いた音を立てる。

「それは確かにばつが悪い」

 エフィモヴィクはそう言って肩を竦めた。

「何の整理にもなっていません」

 トリニティは冷静に評した。

「遊園地、遊園地か」

 アリスが冷えた声で呟いた。

「今日の茶会でおまえに問い質そうとしていたところだ、フースーク」

 不機嫌な顔で僕を睨む。

「いくら我々でも、あれは少々遊びが過ぎる」

 デアボリカが笑った。それが例え小さな吐息のようなものでも、彼が笑えば円卓は鎮まる。

「どうやら、アウターは根本的な問題ではなかったようだ」

 デアボリカにそう言われて今度こそバベルは沈黙した。

 事実は事実として残り、疑問は疑問として残ったまま。それでも僕とガラハッドの間には新しい動機が発覚した。

「君のゲートの向こうに何か証拠があるのではないか、フースーク」

 イーフリートが僕に問う。

「そこにアムネジアはいないだろう?」

 残念ながら、その通りだ。

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