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短編

一夜の邂逅

作者: 葉月 悠人


 ? 『おや、お嬢さん。こんな夜中に外出とは感心しませんな?』

 少女「こんばんわ不審者さん、こんな夜中に幼気いたいけな少女をナンパですか?」


 ? 『自分で自分を幼気いたいけと評する人は初めてだよ』

 少女「つまり私は貴方にとって初めての人ってことですね、責任取ってください」


 ? 『誤解しか招かない言い方やめてくれません?』

 少女「それで不審者さん、貴方こそこんな夜中に何の御用で?」

 

 ? 『いらぬお節介とは承知だが、こんな時間に外を歩いてはお化けに襲われるよ?』

 少女「技術や科学が発達した21世紀にもなって時代錯誤も甚だしい事を・・・頭大丈夫ですか?」


 ? 『どうやら君には情緒じょうちょ風情ふぜいという概念が完全に欠落してるようで・・・』

 少女「そんなものを言葉に乗せても帰ってくるのは情緒も風情も、それこそ心すら無い言葉です」


 ? 『君はそのとしで一体何を見てきたというのです?』

 少女「ごく普通の景色ですよ」

 

 ? 『なるほど。つまり最近の若い子は皆、お嬢さんみたいな考えという訳ですね』

 少女「そうだと思いますよ?私、友達いないので知りませんが」


 ? 『いささか、配慮が欠けていましたね・・・失礼』

 少女「全くですよ、おかげで私のハートは粉々です。物損通り越して人身レベルの被害ですよ」


 ? 『生憎、保険には入ってませんので・・・どうか示談でご勘弁ください』

 少女「そうですか、なら代わりに私が抱える行き場の無い愚痴を聞いてくれるなら不問にしてあげます」


 ? 『・・・本当に君がその齢で今まで何を見てきたのかすごく気になる。』

 少女「ただの一般人が見る景色なんてみんな同じです。前を歩く人の背中と足跡を見て歩きながら、前の人と同じ道を歩かない人が排斥はいせきされるのを眺めるんです。」


 ? 『君はどちらの人間かな?』 

 少女「そのどちらでもありません、私は生まれ落ちた時から誰かの後ろを歩く事は愚か、関わる事すら許されなかったただの忌み子なのですから。」

   

 ? 『・・・生まれ落ちた時から既に村八分を受けたのか、可哀想に』

 少女「天涯孤独でありながら今尚生きて孤独に苦しんでいる・・・私は前世で一体何をしたんでしょうね?」

 

 ? 『それが君の行き場の無い愚痴というものかな?』

 少女「それが私の行き場の無い愚痴というものです。」


 『「・・・・・・・・・・・・・・・・・」』


 ? 『お嬢さん、その齢で随分なご苦労を抱えているようで』

 少女「他人の同情ごときで解消するような事じゃありませんが・・・今はその同情が嬉しく思います。」


 ? 『時にお嬢さん、1つ聞きたいのだが』

 少女「なんでしょう?」


 ? 『君は何故こんな夜更けに、それも1人でこんな場所に居るのかをお聞きしたい』

 少女「・・・」


 ? 『いくら天涯孤独の身とはいえ、里親くらいは居るのでは?』

 少女「さっきも言った通り、私は天涯孤独ですよ。いうならば私にとっては『孤独』こそが家族です」


 ? 『あぁ・・・それは実に可哀想なことで、もはや同情の言葉すら見つからない。』

 少女「でもそんな私に一度だけ、手を差し伸べてくれた人が居ました。その人と出会ったのがこの時間の場所でした。」


 ? 『・・・ほう?』

 少女「その人は行く宛ても無く村を飛び出し、夜の寒さと空腹にただ震えていた私に一晩の『幸せ』を与えてくれました。」   

 

 ? 『なるほど?つまりお嬢さんがこんな時間にこんな場所に居る理由と言うのは』

 少女「何年も前に私に手を差し伸べてくれた人、あの人にお礼を言いたくてここに居る、『貴方のおかげで今の私がある』と・・・」

  

 ? 『当の本人はそれを忘れてるかも知れないのに、健気な事だ』

 少女「当の本人はそれを忘れてるかも知れませんが、私が覚えてますから」


 ? 『・・・時を超えて尚そこまで想われるその人を心底羨ましく思いますよ』

 少女『さて、今日も会えそうに無いので帰ります。不審者さん、もし明日もここに居るのならまた話し相手になってくれません?』


 ? 『私のような不審者でよろしければ、いくらでもお付き合いしますよ』

 少女「最後の最後まで不審者って所は否定しないんですね」


 ? 『夜しか外を出歩かず、幼気な少女でに声をかける者を不審者以外に何と呼べばいいのでせうか?』

 少女『・・・違いないです。』


 ? 『それじゃあお嬢さん、お気をつけて』

 少女「ありがとう不審者さん、さようなら」


 ~~~~~~~~

 

 ? 『『貴方のおかげで今の私がある』か・・・それはこちらも同じですよ、お嬢さん』


 ? 『人間が我々『怪異』を恐れなくなって久しく経つのに、何故私だけが消えずにいるのか・・・それがようやく分かった』


 怪異『まさかあの時の幼子がずぅっと私を覚えていたとは・・・怪異と言えど案外長生きしてみるものだな』

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