力の解放
学校に着いて教室に入るなり、友達で親友とも呼べる秋赤音雪兎が駆け寄る。
「琥珀! 朝から何この展開は!」
もうそれはそれはすごい剣幕である。他の女子は由良の方で「なんで朝から琥珀と登校なのー?」と質問が矢のように飛び交っている。
琥珀はとりあえず、カバンを整理してから雪兎を引っ張り渡り廊下へ出た。
説明は上手くできない。
ただ、父親の関係で家に居候することになった旨を伝えた。
「何それ、その美味しい展開は」
雪兎は喰い付き気味に詰め寄ってくる。
「でもねぇ、私としてはご遠慮いただきたいんだけどなぁ」
琥珀はため息をついた。
「でもあんなカッコイイ子なら文句ないじゃん」
「それは私も思ったけど……意外に性格悪いよ、アイツ……」
渡り廊下から登校してくる生徒を眺めて、回想する。昨日今日でいろいろあり過ぎて頭がついていってないのが正直な感想だった。
「あーもう! モヤモヤする!」
琥珀が独り言を発したその時――、傍にあった蛇口から一斉に水が噴き出した。
周りはパニックである。
「え? なに! 故障!?」
雪兎も遠巻きにポカンと見ている。琥珀も呆気にとられていたとき、ふっと誰かに腕を掴まれたと思ったら……そこは屋上で、いつの間にか立っていた。
「お前なぁ……」と目の前には由良が頭を抱えるようにうなだれている。
「え、なに! なんでここ!?」
琥珀はさっきの水道事件よりもパニックである。
「これも……あんたの力なの……!?」
そう言った瞬間ギロッと睨まれ、小声で「あの、由良の力なの?」と言い直した。
「このくらいは誰でもできる。というか、琥珀はその不安定な異能の力をまずどうにかすべきだろうな。感情で建物吹っ飛ばされても叶わん」
パチンッ!
指を鳴らすと由良は自分を中心として学校内に結界を張った。
「どうせもうバレているだから、一度力を開放してみるのが手っ取り早いだろう」
「へ?」
琥珀には何が何だか分からないという感じで、間抜けな返事をしてしまう。
「お前のフェロモン自体にはどんな結界も効かん。この俺の結界でも無理だ。だが、その指輪を外さなければ異能の力は解放されん。測定すらできんからな」
「何その運動測定的な表現は……」
琥珀は呆れていた。
「でもでもでもでも! この指輪取れないのよ。だから無理っていうことで」
踵を返すと屋上出入り口へ向かう。これ以上変なことに囚われたくなかったのだ。
ふわっと後ろから抱きしめられる。
一瞬訳が分からず「え?」と振り返る。後ろから抱きしめていたのは由良だった。
「俺がいるから大丈夫だ」
そう耳元で囁く。
琥珀の心臓はバクバクで今にも口から出そうになっていた。
由良はそっと琥珀の小指を持ち上げると軽くキスをする。
そして、ゆっくりと指輪を抜き取った。