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結界

 父親は語りだした。


 確かに生まれた娘は「運命の花嫁」であったと。

 ただ、今までと違うことが起きた。普通の人間ではなく『異能者』であるようだと。

 それを察した母親がこの子を匿うことにしたと。花嫁としての人生は決まっている。その上異能者であることが知れたら……この子は「成人の儀」までに利用されてしまうと。

 母親の生命エネルギーと父親の異能のエネルギーをつぎ込み、母親の結婚指輪を媒体としてフェロモン封印用のリングを作って我が子の小指にはめたことを。

 母親は他界し、自分は異能のほとんどを失ったことを。


「それで今はこの程度の結界しかできないという訳か」

 由良はフフンとせせら笑いを浮かべる。


 そして父親は琥珀にも全てを教えた。



 どの御代で生まれるか定かではないが、色々な能力を持っている通称「異能者」にとって何としても手に入れたいのが通称「運命の花嫁」であること。

 生まれた瞬間から発するフェロモンは、雄のアドレナリンを高揚させると。

 その甘美なまでのフェロモンに誘われ、見事「つがい」と成れたなら、そのフェロモンは花嫁を介して自分の「能力エネルギー」に変換され、実質上能力者の頂点に立てることを。

 そして花嫁が16歳になった時、「成人の儀」が行われ、それが花嫁争奪戦開始の合図であると。

 それが能力者異種争奪戦「縁定めの儀」であることを。

 花嫁とは、普通の人間なはずなのだが、お前はなぜか「異能を持って生まれてしまった」と。




「なにそれ……私は何かの景品か何かってこと」

 琥珀はワナワナと震えながら怒っている。

「景品とか可愛いものでもない」

 フンッと由良が笑って、そして目を細めた。


「俺たち雄の『奴隷』だ」

 琥珀は怒りマックスである。

「なに……それ……」

 琥珀の周りに気流が集まってくる。琥珀の右手のピンキーリングがピキピキ音を立てていた。

「それ以上感情に任せて、形見のリングぶっ壊したら、何のためにこいつらがそれを作ったんだ?」


 琥珀はハッと我に返り、慌ててピンキーリングを確認する。

 そして安堵のため息をつくと、「私ちょっと疲れちゃったから、部屋に戻る」と言い残しその場を去っていった。



「おい、お前紙持っていないか」

 由良は父親から和紙を受け取ると、指先を噛んだ。一滴二滴紙の上に血を滴らせる。そして手をかざすと、血が文字へと変換された。しかし、読める文字ではない。

 そしてそれはそのまま鳥に変化すると飛び去っていった。


 由良はポケットからスマホを取り出す。何か操作し通話ボタンを押していた。

「由良です。詳細は送りましたが、花嫁は見つけました。一応捕獲してあります。また「成人の儀」が終わっておりませんので、それまではそこで住むことにしました。はい、報告は週末にいたします」

 そう用件だけ告げると、父親に向かって「世話になる」と一言述べた。


「本堂へ連れていけ、『書き換える』」

 父親に連れられて本堂へ向かう。


 本堂はろうそくの炎だけでほとんどが闇の中の静寂そのものだった。

 本堂の中心で、由良が手をかざす。

 すると光の線が由良を中心に波紋のように陣を描いていく。描き終わるとその中心から剣を取り出す。そしてそれを胸の前に掲げると、静かに「出でよ四聖獣」と呟いた。


 ろうそくの炎が静かに揺らめいた。


 父親は息を呑んだ。

 目の前で行われていることはただの高等術式ではない。四聖獣にあの剣……あれが雨辻一族の所有する「天叢雲剣」なのか、と。


 そしてその四聖獣を四柱として、この寺を中心に広範囲――この街全体を結界が包み込んだ。


 儀式が終わると、四聖獣も剣も音もなく消え去った。


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