表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/586

ビンゴ

「雨辻くん? なになに、なんか用事?」

 ちょっと赤くなって、琥珀が振り向く。その声かけで、我に返った。

「あ、消しゴム取ってほしいんだけど」

 何もなかったかのように顎で落ちている消しゴムを指す。

 それを拾ってくれた右手に細いピンキーリングが光っていたのが印象的だった。


「ビンゴ」

 由良はニヤリと微笑む。

 しかしそれは同時にこの日本の雄の異能者にも届いているだろう。しかし、今は自分が一番近くにいる。

 理由は分からないが、どうやら普段フェロモンは「封印」されていることも理解できた。誰かが「花嫁」を隠していたことになる。それはこの業態では重大な「協定違反」だった。万死に値する。


 しかし……この様子ではまだ「成人の儀」は行われていないだろう。

 これからが正念場だな……と、ほくそ笑んだ。


 由良が最初に行ったのは琥珀に「結界」を張ることだった。

 できれば要らない虫は寄ってきてもらいたくはない。

「おい、京」

「んーなに?」

 帰り際、群がる女子を蹴散らした由良が琥珀に声を掛ける。

「おい、口開けろ」と何気に上目線で言ってきた。琥珀は少しボーッとしたところがある。

「なになに、なんかくれるの?」

 と上機嫌で口を開ける。すると口の中に飴をポンッと放り込んだ。

 咄嗟にもぐもぐする琥珀。

「なにこれ、飴? なんか柔らかい」

 モグモグしながら飲み込むのを由良は確認する。

「お近づきのシルシってやつだ」

 踵を返し、手をひらひらさせながら、由良は教室を出て行った。


「な、ちょっと琥珀! どういう事よ!」

 周りの女子からは大ブーイングである。

「席が近いから役得だったんだろうねー」

 と言い訳をして、琥珀は先に家路に就いた。これ以上絡まれるのはめんどくさかったからである。


 一人校門を出て行く琥珀を……屋上から由良は見下ろしていた。




 家の門をくぐろうとした時である。

 バチッ!

 と静電気みたいなものが走った。

「なに、静電気とか!?」

 すると、寺の本堂から父親がえげつない表情を走ってくる。琥珀をみると一旦は安堵したが直ぐに「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやっ!」と首を横に振っている。

「なになに、その形相」

 琥珀はビックリして父親の顔を覗き込んでいる。こんなことは初めてで、面食らってしまった。

 父親はその両肩に手を当てると「今日学校で何かあったのか!」と鬼気迫る表情で琥珀を見る。

「特に何もなかったよ。あ、転校生が来たかなー」

 と一日の出来事をフラッシュバックさせていた。

「それはどんな奴だ!」

 その気迫に押されて琥珀は戸惑う。



「お前なのか、こんなくだらない『小細工』していたのは」

 琥珀の後ろから声が聞こえていた。びっくりして振り返ると誰も居ない。

「出てこいっ!」

 父親が琥珀を庇うかのように、自分が前に出る。

 目の前には誰もいなかった。


 正確には「見えなかった」のだ。

 空間が縦に切り取られたかのように、何もない切り口の空間から出てきたのは由良だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ