琥珀、立ち上がる
椛の攻撃を片手で受けて笑っているノアに、楓は門弟から持ってこさせた銘刀剣を持ち替え鞘を抜く。展開した陣をそのまま、ノアに対して2対1の攻防戦へ突入していた。
二人の攻撃を素手で受けつつ、ノアは恍惚な表情を浮かべ余裕を見せる。
どう見ても二人の攻撃を素手で受けているノアにこの勝負の軍配は上がっていた。
境内の段に座って頬杖しながら観戦していた琥珀は、静かに立ち上がった。
それは音もなく転移し、琥珀は葉月が苦戦している中に割って入ると、瞬時に大蛇を蹴り倒す。
轟音と共に倒れる大蛇が鎌首をもたげようとした時には、琥珀のその結界は完成していた。
巨大な正方体の結界の中、標本のように動けないリリスがいる。
《なんだ……こいつは……》
結界を破ろうと形態を変え堕天使へと変形すると足掻く。
「ちょっと、部外者は見学しておいて」
琥珀が珍しく表情を変えずそう告げる。
そして、そのままノアと双子の中に割って入ると、ノアに向けて先程と同じように回し蹴りを直撃させる。
それをみぞおち寸でのところ、両手で受けるとその衝撃でノアは数メートル吹っ飛んで止まった。
直撃は免れていたが、腹部には衝撃までは受け止めきれず、損傷した内臓部の影響でガハッと吐血する。
「相変わらず、素晴らしすぎる! 貴女は──」
血の流れる口角を拭うと、ノアは歓喜の奇声を上げた。
しかし、ノアの体内では自己修復が行われているのか、ダメージが軽減されていく様子で、苦悶様も少しずつ和らいてきていた。