双子の役割
「これが噂の異端児か」
楓はほくそ笑みながら椛の後方へ下がる。そしてまるでタクトで奏でるかのように、幾重にも魔方陣を完成させていった。そして琥珀の方を向くとニヤリと笑う。
「二人いるには二人いる利点を見せてあげるよ」
楓が琥珀にウインクしてみせる。その根拠のない余裕に琥珀は楓をじーっと睨んでいた。
「双子なりの戦い方ってこと?」
楓の言葉が気になり、琥珀は不思議そうに尋ねた。
葉月が「チッ」と舌打ちする。
「術には詠唱なり魔法陣展開なり術発動に段階を踏む必要がある。それを双子は各自の分担により時間短縮を行い、効率よく相手に勝負をかけるのであろう」
化け猫葉月は威嚇の度合いを緩めず、琥珀に説明する。
「あーあー、説明されちゃったら、実際見た時のお楽しみが半減じゃん」
そう言うと、楓はジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを外した。
そして、指を噛み滴らせた血を幾重にも展開させた陣へ流し込んでいく。陣が一つ一つ完成していくのがある意味綺麗で──、その陣を見ながら、琥珀は「おおっ」と歓声を上げていた。
ノアの足音が近づいてくる。
もう既に足音ではない。周りの物や木々をなぎ倒し、歩いた後は何も残らない。
歩く『天災級』であった。
「あれだけ力の垂れ流しでも問題ないっていうコトですか」
その状況を目の当たりにして、前方を担った椛は焦りの色を浮かべる。
琥珀は無言でその状況を観察する。目を細めるとノアだけではなくリリスに視線を置く。
「ノアだけならなんとかなりそうだけど……やはりあの悪魔は厄介なようね」
それは誰に対してなのか、自分に対してなのか──静かに呟いていた。
音もなく全てが動き出す。開始の合図は呆気なかった。