夢が現実へ移行する瞬間
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出雲の解呪が終わると……由良はゆっくりと目を覚ました。
そこは自分の部屋の天井だ。夜布団に入ったままの状態で、何事もなかったかのように由良自身が横たわっていた。
夢は夢なのか、と錯覚してしまう。
「いや、感触が……残っている」
由良は唇に残る感覚を指でなぞり微笑んだ。
そして段々と意識がはっきりしてくると共に、由良自身の体験の全てが蘇ってくる。
「あれが……花嫁の力……なのか」
体中が叫ぶような、欲しているというのか。そんな言い知れぬ高揚感で身震いする。
由良の屋敷は静かだった。先ほどのことは何もなかったかのようでもある。
しばし考え込んでいたが、由良は起き上がるとその姿で薬研家へ音もなく『転移』した。
転移先はそこは先ほどまで自分が居た出雲の病室だった。
居たという表現が正しいのかは疑問であるが、確かに先ほどまで琥珀と由良はここに居た。ここで由良は琥珀の力を受け、『自分では考えられない』事をやってのけたのである。
今までどれくらい異能を扱ってきたか定かではない。しかし、その全ての経験など比ではない程の能力開放だったのを思い出す。
出雲の病室は夜中にもかかわらず医療スタッフが対応している。バタバタしている後ろで、当主である志乃が見守っていた。
志乃の隣に移動した由良は、無言で会釈した。さっきの事象に志乃が立ち会っていたのを由良は知っていたのだ。ここに由良が『確認しに来た』ことは理解していたため、無断で屋敷内に侵入しても咎めることはしなかった。
志乃は振り向くことなく治療を見守っている。そして一言「ありがとう」とだけ呟いた。
「あの、出雲は」
「見ての通りよ……助かったわ」
その言葉を聞いて、由良は夢が現実だったことを自覚する。
自分のやったこと全てが『現実』へ移行した瞬間だった。
由良は安堵の笑みを浮かべ……そして何も言わずその場を去った。