葉月現る
(楓さんって社長なのねー)
更にセレブ感が漂ってきて、琥珀は自分が場違いに思えてきたが……、そう思いながら窓辺に立ち眼下に広がる『東京』というものを眺めていた。
「異能の一族って全国に散らばっているのかしら」
なんて疑問が浮上してくる。
今までいろいろなお屋敷にはお邪魔したが、「ここはどこですか?」と聞いても誰も教えてはくれなかった。『機密事項』らしい。
(そりゃ隠れ家を明かしたら隠れ家ではないわね)
などと思うとおかしくて、ついついニヤニヤしてしまう。
「ご機嫌だな、琥珀」
気が付くと、葉月が窓辺で毛繕いをしていた。
「葉月どこいってたのよっ!」
久しぶりな葉月に対してついつい琥珀は八つ当たってしまう。葉月はその言葉には無言だった。
「葉月がノアのところで負傷してから、私もいろいろあったけど……ちょっとは心配してたんだから」
「……あの程度のこと、造作もない」
葉月も一面窓ガラスの廊下から、下界を覗いていた。そんな葉月を見ながら安堵するかのように、琥珀はクスッと笑う。
「葉月って神出鬼没よね」
「あまりどこでも出歩いて面倒なことは御免だ」
めんどくさそうに葉月が答える。そして眼下を見下ろして「人間社会も変わったな」と呟いた。
「葉月の時代ってどうだったの?」
「我の時代とな……少なくともこんなデカい建物は無かったな」
目を細め何か耽るかのようにそう答える。
「まぁ葉月って一応化け猫だもんね」
「一応とはなんだ。もとは由緒ある……」
まで言いかけて、気配に気づき振り返る。
(こいつ……気配消してやがった)
葉月が後退し睨みつける。
楓は琥珀の後ろに立って、「何か見えるー?」と声を掛けてきた。
急に後ろから声がして、琥珀がビクッ! と反応すると、嬉しそうに隣に立った。