情報と身の安全
出雲はしばし考える。
「お前たちはどうしてここに二人だけで住んでいるんだ? 家族や一族はどこへ行った」
出雲が単刀直入に切り込む。こんな霧の立ち込める人里離れた森の……このような子供二人だけで暮らしていること自体異常だと感じていたのだ。
「『厄災』にすべて蹂躙しつくされた。皆殺しだ」
そう言うと、悔しさからであろう、少年はこぶしを握り締め唇を噛んでいた。
出雲は理解した。
ここはやはりヴァンパイアの里か何かだったのであろう。それが何かが起きて生き残ったのはこの二人ということになる。そのキーパーソンは〝ノア・エインスワーズ〟だという確信も得た。
たぶん話すことで報復を恐れているのであろう。十分考えられることであった。
「お前たちはここで暮らす理由は何だ」
その質問に兄の方が少しびっくりした表情で出雲を見る。
「他に行くところが無い。ここの土地の一族は滅亡したが、我々を隠す結界が今も活きているからな」
この霧が濃くまとわりつくような感覚は……やはりそうなのかと出雲は実感する。しかし、結界を張った者が居ない今、時間の経過と共に弱くなっていくのも否めない。
「それならウチがお前らを保護してやる。異国となるがここよりずっと〝安全〟だ」
「異国……どういうことだ」
兄は訝しげに出雲を睨んだ。
「お前らの察しの通り、オレの一族は異能集団だ。訳あってノアを追っている。だからお前ら兄妹とは方向性が同じってなだけだ。『安全な生活』と『ノアに関する情報』を交換条件ってことだよ」
そう言うと、出雲はニヤリと笑った。
兄が振り返る。気が付いた時には、隣で妹が飴を頬張って嬉しそうな顔をしていた。注意が出雲に集中していたため、飴を食べていたことに気づかなかったのだ。
一瞬兄は慌てたが、妹は美味しそうに食べている。それを見て「本当に危害を加える気はないのか」と判断した。
「身の安全は保障されるんだな」
再度、確かめるように質問する。
「それは約束しよう。こっちもノアの情報は喉から手が出る程欲しい」
その言葉に兄は頷いた。