由良の覚悟
琥珀はベッドに移され、一般治癒に移行される。
琥珀は眠ったままだった。全身包帯を巻かれて、只々静かに眠っていた。
由良はあの光景が焼き付いて離れていなかった。
琥珀ばかり過酷なことを強いられる。
寝ている琥珀を手を握る。温かい手に安堵する自分が居た。
「自分を責めるな」
いつの間にか背後に永遠が立っていた。
「何でコイツばかりなんだ……」
取り留めもなく流れる涙を拭うこともせず、由良は唇をかみしめる。
ここまで花嫁とは苦難や苦痛を伴う存在なのか……由良は自分の甘さを痛感していた。
「そう思うなら勝者になれ」
息子の頭を抱き寄せると、永遠はそう告げる。
「それがこの子の唯一救われる道なのかもしれんな」
永遠は由良を信じていた。ただ、争奪戦の覇者になることではなく、ひとりの『男』として『女』を幸せにすることができると……。
❖ ❖ ❖ ❖
由良は変わった。
何も言うこともなく、普段のメニューを人の数倍こなし、教えは迷わず請いに行く。
他の名家は嫌な顔をしていたが、自分の子と一緒の場合は同席を許し一緒に練習していた。
武術に至っては、湊に頭を下げた。
最初湊は冗談だと思っていた。しかし、断っても何しても何回もやってきては頭を下げる。湊は由良の真剣さに交換条件を出してきた。
「気の使い方を教えてくれ」
これが異能の無い湊の導き出した結論だった。
「そんなことでいいのか?」
由良は意外な条件にびっくりしていた。
「お前らにとっては『朝飯前』だとしても、俺には難題なんだよ! 悪いか」
由良はニヤリと笑う。そしてそれを承諾し、由良は武術にも精を出すようになった。