開戦の合図
その話を聞いて伊澄は嫌な予感がしていた。
「何回かあの『鳥籠』をオレは見ている。あれが事実上〝魂の楔〟なのだろう。しかし、どうやらまだ不完全のようである。その証拠に湊の心の臓を解き放つと崩壊してしまっている」
「不完全ってどれくらいなんだ」
「わからん……あいつは〝女王リリス〟を召喚する能力があるぐらいだからなぁ、それを使っても数日……か」
「出雲はまだ尻尾を掴めていないのか!」
他から苛立ちの声が飛び出す。
「まだ数日で掴めるわけないでしょ!」
祖母である薬研志乃はその意見に苛立ち反論した。
それでも数日猶予がある。
「猶予はありませんよ」
椛が告げる。
「あれは〝運命の花嫁〟なのをお忘れですか」
それが何を意味するのか……忘れていた。
ノアのモノとなった場合、覇権がノアの手に入る。
全員に焦りが走る。
その状態になった場合、奪還は不可能となり、争奪戦は終わってしまう。
「それに足取り追うのも……亜空間に逃げ込みましたか」
椛が指輪を受け取り、足取りを追ってみるが、上手くいかない。
普通、人間は亜空間に滞在はできない。それも解せなかった。
「ある仮説ですが……ノアは人ではないのではないでしょうか」
そのことを受け、永遠がハッと何かに気づく。
「私と一戦交えた時、変わった移動方法していたな」
それを受け伊澄も思い出した。
「そろそろ捕獲しましょうか」
それで意見は一致していた。
それは境内の中央に描かれた魔法陣だった。
その中央に指輪を置き、陣を囲うように、現役四名と現当主陣が総勢十名総出でアプローチを仕掛ける。
亜空間への足取りはとてもか細い。緻密な捜索を並列操作で行っていた。誰か一人でも掴めたら乗り込める。それに賭けていた。