満月だからできる事
「何かありましたか?」
椛はいつもと変わらない口調で話しかける。そんな楓を横目で葉月は「白々しい」と思いながら、ソファで毛づくろいを行っていた。
「湊くん大丈夫なの!?」
縋るように琥珀は椛に問いただす。琥珀にとって湊は大切な友達だったし、師でもあった。
その言葉に一瞬椛の表情が曇ったが、直に何もないかのように「何のことですか?」と返答する。
琥珀はその一言で、『蚊帳の外』だということを悟る。入ることのできない領域だと感じた。直ぐに涙を拭くとちょっと深呼吸した。
「ううん、何でもないの! ちょっと動揺しただけ」
その言葉を伝えると、それ以上何も話す必要はないというように、椛から離れる。琥珀はもう自分で何とかしないとダメだと思ったからである。
椛はその琥珀の言動に対して一瞬葉月を睨んだが、
「お願いですから、動かないでください。一応『命令』です」
そう言い残して直ぐにどこかへ移動してしまった。
椛が去ったことを確認すると、琥珀は葉月に詰め寄る。
「葉月! 何かいい案ないの!! 犯人は誰なの!!」
琥珀は葉月を掴むと食って掛かった。
「そのようなこと我も知らぬわ!」
揺さ振られながら葉月が叫ぶ。その手が止まった時、ふっと何かを思い出したかのように呟いた。
「相手を捕まえることは……一筋縄ではいかぬが、しかしこちらから出向くことは可能かもしれんな」
その言葉に琥珀は食いつく。何としても港を助けたい。
「出向く? どうやって出るの!」
琥珀はこの結界の張ってある屋敷から出られないことは理解していた。
「琥珀、おぬしは『夢渡』ができる。その夢という亜空間を移動したらあるいは、〝餌に食いつく魚〟が捕まえれるかもしれぬ」
葉月は外を眺め目を細める。外には美しい満月が浮かび上がっていた。
「気づいているだろう? 今夜は……」
「うん、満月だ」
そう答えると、琥珀は全てを理解したかのようにニヤリと微笑んだ。
「でもなんでまた満月時に敢えて襲ったのだ、解せぬ」
葉月は呟く。しかしその声は琥珀には届いていなかった。