葉月進化する
それは雲一つない美しい月夜だった。
今回は公開の対戦試合なので、「命の保証はしないけど、それでも良ければ見学可」と御触れを出した。ノアに対してはちょっとした「用事」を仰せつけた。
本当はノアも見学したかった思いもある。
しかし問題をしでかして、昨日今日のできごとである。自粛しましょう、とため息をつきながら一人討伐の命を全うしていた。
「それにしてもこんなこと私に頼んだら……この国の物の怪は全滅しますよ?」
山のように転がっている物の怪の死骸の山に立ち、満月を眺めながらため息をついていた。
境内はちょっとしたお祭り状態になっていた。上位の者でも選ばれた者しか無理なのだが、それでも門弟でも噂の「運命の花嫁」を見れるということで、皆一堂に緊張していた。それも現当主との組手とは……ほとんどの者は現当主陣の圧勝だと睨んでいた。
母屋の縁側では気が重い琥珀が暗い顔をして座っている。
まだ全身各所に包帯をしている出雲が「大丈夫か?」と心配そうに声を掛けた。
「うぅぅぅぅぅぅ、やっぱ無理だよぉ」
琥珀は全身ガクガクである。
先ほどチラッと境内を覗いたら、人の多さに圧倒されココで縮こまっていた。
「我が相手をしてやろう」
足元から声が聞こえる。
「ん? 出雲くん何か言った?」
「いや、オレじゃねぇ」
二人して顔を見合わせる。
足元では葉月が顔を舐めていた。
「いやいやいやいやいやいや……とうとう幻聴まで聞こえてきたのかも」
もう重症だ、と言うかのように琥珀は出雲に涙目で懇願した。
「我が相手をしてやろう」
「へ?」
琥珀と出雲が足元を見る。
そこには毛づくろいをしている葉月だけだった。
一通り毛づくろいを終えると葉月は二人を見上げニヤリと笑った。