ヒーリング
志乃は怒り心頭であった。
「これは由々しき事態です。八雲家にはノアと言う者の受け渡しを要求します」
志乃のオーラはとても怒りを鎮めそうではないことを物語っている。
伊澄も今回の事態を重く考えていた。
だが、まだノアという人物の背景が全く掴めていない。
「それはこれから審議いたしましょう」
永遠が助け船を出した。
志乃の怒りは収まっていなかったが、傍で控えていた者に「皆を案内して」と命じる。一同はその場を後にした。
琥珀は出雲の傍についていた。
隣には由良も眠っている。
他のメンツは後処理の指揮に当たっていた。
琥珀は自分の不甲斐なさを悔しがる。もっと何か事前に対処できなかったのか……悔し涙が頬を伝って落ちた。
「おねーさんのお陰だよ」
気が付くと、背後に斐伊が立っていた。
傍にすり寄ってきた葉月をワシャワシャ撫でている。
「でも……出雲くんは」
琥珀は悔しがった。
「あまり自分を責めると葉月も心配するよ」
葉月はベッドの上に伸び乗ると「ニャーン」と一声鳴いた。
「最初こいつが出てきたときは、何も考えていなかったけど……きっとこいつとの出会いも〝必然〟だったんだよ」
そう言うと、斐伊は「コップの水をイメージして」と手を差し出した。
それを受けて、訓練したあのイメージを思い起こす。
「そうそう、それを今度は葉月に与えるイメージ」
斐伊が優しく誘導した。
琥珀は言われるがままに、葉月にエネルギーを流し込む。
葉月はそれを受けて、まず由良のところまで歩み寄ると、額に鼻先をタッチさせた。
由良の身体が仄かに温かく光る。
「これは……」
「ヒーリングの一種。おねーさん自身は意識下ではこれは無理そうだから、葉月に支援してもらっているんだよ」
由良の顔色が少しずつ良くなっていく。
頬に赤みがさしたころ、由良は目を覚ましガバッと飛び起きた。
その間にも琥珀と葉月は出雲にヒーリングを行う。