普通が異常に変わる瞬間
この世には普通の人と「特殊な能力者」の人がいる。
どの御代で生まれるか定かではないが、色々な能力を持っている通称「異能者」にとって何としても手に入れたいのが通称「花嫁」だった。
花嫁とは、普通の人間なのである。
しかし、生まれた瞬間から発するフェロモンは、雄のアドレナリンを高揚させる媚薬。その甘美なまでのフェロモンに誘われ、見事「つがい」と成れたなら、そのフェロモンは花嫁を介して自分の「能力エネルギー」に変換される。実質上能力者の頂点に立てる。
花嫁はいつどこに誕生するかは分からない。
生まれた国の能力者の雄にのみ、つがいとなれる権利が与えられる。文献ではハーフはギリギリ参加資格があるとか。
そして花嫁が16歳になった時、「成人の儀」が行われる。
それが争奪戦開始の合図である。
異種能力者花嫁争奪戦「縁定めの儀」
能力を問わず「異能者」と呼ばれるもの全てによる。花嫁争奪戦。
しかし実際は、能力の高い者しか参加ができない。なぜなら〝生き残れない〟からである。
一度「花嫁」が生まれた形跡はあった。
しかしそのフェロモンはすぐに「消えた」のだ。いままでありえない事である。
異能者は口々に「出生後すぐに死んだか」と噂していた。
それから16年。
生きていれば今年「成人の儀」が行われるはずである。
望みを捨てていない者は動き出していた。
「縁定めの儀」に向けて。
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京琥珀は高校生を謳歌していた。
家はお寺であるが、琥珀には関係ないと思っている。父親も「別にウチの心配はしなくていい」と言ってくれていたので、後継ぎとか考えず、毎日を生きていた。
彼氏というものにも憧れる。そんな普通の高校生だった。
何も知らない、その日までは。
夕食が終わり、父親がテレビを見ている横で、洗い物をしていた。男手一つで育てられたので、一人っ子の琥珀は父親と二人暮らしだった。
「世の中もいろいろと恐ろしいことだらけだな」
父親が呟いたことを、琥珀は見逃さない。
「なになにまた何かあったの?」
洗い物が終わり、手を拭きながら、琥珀も茶の間の座卓に座る。テレビは事故の映像を映し出していた。
その時に違和感を感じて、咄嗟に口から飛び出す。
「あれ? 父、見て見て。この事故車の上に人が立ってるけど、何かパフォーマンス?」
その言葉で、父親はギョッとして琥珀を見る。琥珀はテレビを見ながら「ほらほら、ここよ」と指さしていた。
「琥珀……見えているのか?」
琥珀は「なにが?」という風に父親を見た。琥珀からしてみたら、テレビに映っている映像にしか過ぎないからである。
父親はそれ以上は何も言わず黙ってしまった。琥珀からしたら何が理由なのか分からない。
気にせずそのテレビを見ていた。
少しして、父親がテレビを消す。「えー見てたのに」と琥珀はブーイング満々だ。
「あのな、琥珀。この世の中には特殊な能力を持った『異能者』がいるって話したことあっただろう?」
父親は静かに語りだした。
「え、あー子供の時に聞いた気がする」
遠い記憶を手繰るように、琥珀は考えていた。
確か異能者がいることにして……私は加持祈祷や呪術師のようなものと認識していたから、気にもしなかった。
「あのテレビで映っていた人……あれは『異能者』だ。それも普通は見えないように自分に術をかけている」
「なにそれ……」
「お前が見えたということは、能力が開花してしまったのだろう。『成人の儀』を行わなければならない」
琥珀にとっては全てが意味の分からないことである。「成人の儀」とか歴史でなんかやった程度の感覚でしかなかった。
「ちょっと、よくわかんないんだけど……ウチは寺だからそーいうよくわかんないことするとかそーいうやつなの?」
動揺気味に琥珀は声を荒げて聞いた。
今までは「寺のことは関わらなくていい」と言っていたことと……父親は真反対のことを言っている。府に落ちなかった。
「いや、やるって言っても形式的なことだ。今すぐではない」
父親の笑顔で安堵する琥珀。急に神妙な顔つきになっていたので、ビビっていたのだ。
琥珀は特に気にしないようにしていた。