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8/21

7/1 18:55

 どうしてこんなことになったのか。なぜ、担任の聡明が良輔の家にいて、良輔の背後に立っていたのか。彼にはそんなことを考える余裕もなかった。とにかく、いま目の前に横たわっている元・聡明だった「モノ」を良輔はズルズルと必死に引っ張っていた。

「隠さないと……隠さないと!」

 自分が殺してしまった。とんでもない罪悪感に見舞われたが、すぐに焦りへと変わった。何とかして、自分がやったのではないことにしなければならない。幸い、摂子も幹夫もいない。目撃者もいないだろうと察した良輔は、とにかく聡明の死体を埋めることにした。

 庭にある倉庫からスコップを取り出して、必死に地面を掘った。もう、7月に入ったので気温も湿度も日増しに高くなっていた。良輔は全身から汗を噴き出させながら、とにかく地面を掘り続けた。

「掘れた……!」

 ようやくできた穴。元々、それほど手入れの行き届いていた庭ではなかったため、少々地面が荒れても恐らく摂子も幹夫も気にしないだろう。とにかく、いまは死体を隠すのに必死だった。

 聡明の体を乱暴に地面に放り込み、土を元へ戻す。ゼェゼェと息が荒くなる。しかし、ここで見つかるわけにはいかなかった。摂子や幹夫が戻る前に、何とかして死体を完璧に隠さなければならなかった。

 19時前。

「できた……!」

 ほぼ完璧に、聡明の死体を埋めることができた。ガクンッ、と膝を付いて呆然とその場に座る良輔。

「よかった……よかった……」

 掘り返したことなど想起させない、完璧な埋もめ戻し。良輔は肩で息をしながらも、力強く立ち上がった。倉庫へスコップを戻し、振り向いた瞬間だった。

「……!?」

 誰かが立っている。

「誰……だ?」

「え?」

「その声……」

 雄哉だった。

「良輔だろ? よっ!」

「あぁ……」

 スコップへ自然と手が伸びる。

「どうしたんだ?」

「ん? ちょっと用事があってさぁ」

「用事? 珍しいな、お前が」

 見られていたら、どうする?

 良輔の脳裏にそんな言葉がよぎる。

「そうでもないだろ〜。なんだか、素っ気ないな今日は」

「そんなことねぇよ」

「そう?」

 見られていたら、答えは一つしかない。良輔の頭の中ではその言葉が恐ろしいほどハッキリと、聞こえた。


 ()る。


 友人に対して、いや、親友に対して初めて殺意というものを覚えた。雄哉に罪はないはずでは? 良輔は自問自答した。

 いや、コイツは俺の罪を見た。

 それが罪だ。

 だったら、裁かれるべき。

 いや、本来裁かれるべきは俺のはずだ。

 どうする? 

 どうしたらいい……!?


「良輔?」

「!」

 雄哉の顔が真正面にあった。スコップを握る手に力が加わる。

「どうしたんだよ……すげぇ顔色悪い」

 埋めたばかりの土を普通に通過して、雄哉は良輔のそばへ歩み寄った。

「体調悪いんじゃないのか?」

「いや……そんなことは」

 雄哉はペタッと良輔の額に手を当てた。

「わっ! めちゃくちゃおでこ、熱いぞ!?」

「え? そうか?」

「そうか?じゃねぇよ! ヤバイって、この暑さは……。今すぐ家戻れよ」

「あ〜……でも今……」

「ほら、つべこべ言わずに! おばさーん!」

「!?」

 良輔は雄哉の声にギョッとした。

「はぁーい?」

 摂子の声が家の中からしたのだ。

「良輔のヤツ、すっごい熱あるんですよ」

「えぇ!? どうしたの、良輔!」

 摂子が玄関に出てきた瞬間、鳥肌が立った。

(そんな……! 母さん……家にいたのか!?)

 ガクガクと良輔の膝が震える。

「どうした?」

 幹夫まで出てきたのだ。

「そんな……ウソだろ……!?」

 全部見られていた可能性が高い。音も聞かれていた可能性がある。そもそも、聡明の殺害現場を見られていなかったのだろうか。音が聞こえなかったのだろうか。

「そんなはずは……ウッ……オエッ……!」

 急に吐き気が催してきた良輔は同時に倒れ込み、そのまま意識を失った。

「良輔!」

 雄哉が駆け寄る。

「良輔!? 良輔、どうしたの!?」

 摂子も慌てて駆け寄り、良輔を抱いた。

「すごい熱……! あなた、あなたー!」

「どうした?」

「良輔、スゴい熱なの! すぐ病院に連れて行ってあげなきゃ」

「何? よし、すぐ準備しよう」

 幹夫が慌てて準備をすると言って部屋へ戻る。

「雄哉くん、悪いけど……」

「いえ! それより……お大事にしてくださいね?」

「ありがとう。また、連絡するわね落ち着いたら」

「いえいえ! そんなの、結構ですよ?」

「それじゃ悪いけど……」

「はい、また」

 バタン!とドアが音を立てて閉まった。

「……。」

 雄哉はしばらく閉まったドアを見つめ、それからしばらくしてその口元を緩めた。

「ヘヘッ……」

 不気味に歪んだその口元を雄哉は元へ戻し、野沢家を後にした。






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