7/1 18:00
「午後6時になりました。ニュースをお伝えします」
午後6時。良輔はリビングで食卓を家族と囲んでいた。ただ、昼間見たモノがあまりにも衝撃的すぎて、良輔はあまり箸が進んでいなかった。その代わり、といってはなんだが、自然とテレビに目が行く。いつもはそれを注意する摂子も、注意はしない。
NHKのニュースだ。真面目そうな男性キャスターがニュースを伝える。
「まずは、地震のニュースからです」
(地震か……)
良輔はあまり大きな地震を経験したことはない。なので、今まで地震のニュースと言われてもいまひとつ実感が湧かなかった。ただ、近畿地方出身だという父の幹夫は何でも、阪神淡路大震災という大地震を経験して、この手のニュースは苦手だそうだ。
良輔は無意識のうちにチャンネルを変えた。いつのまにか、これがクセになっていたのだ。
「ごちそうさま」
「あら……。もう終わり?」
「うん……。食欲なくって」
「そう。あ、残ったおかず、まだ食べられるから置いておいて」
「うん。ゴメンな」
フラフラとおぼつかない足取りで良輔は部屋に戻った。
「大丈夫かしらね……あの子」
「当分はしっかりと様子を見てあげたほうがいいだろうな……ん?」
幹夫が摂子の顔を見た。
「……。」
「なぁによ、あなた。そんなに見ないで。恥ずかしいわ!」
「いや……。摂子、ちょっと顔色悪くないか?」
「えぇ? そうかしら?」
「光の加減……かな」
「そうじゃない? 別に体調はいつもどおりだし……」
摂子は近くにあった鏡で自分の顔を映してみた。
「もう! 全然悪くないわ。いつもどおりのキレイなお母さんよね〜、美菜ちゃん!」
「うーん!」
美菜が満面の笑みで答えた。
「……。」
良輔はベッドに寝転がって音楽を聴いていた。思い出されるのは、倒れた志甫の表情ばかり。
実は良輔にとって、死体を目撃するのはこれが初めてではなかった。初めては、小学校3年生の頃。友達と木登りをしていて、友達が高さ10メートル近くのところから足を滑らせて――。そこから先は、思い出そうとすると吐き気がする。
「……ッ! ヒグッ……ヒック……!」
恐怖と不安でいつのまにか嗚咽を漏らしてしまっていた。そのときだった。
ピルルルルルルルッ――!
「!?」
電話の発信音。しかし、妙に機械的な発信音だ。それだけではない。そもそも良輔は――。
「俺……ケータイなんか持ってないのに……」
テーブルの上で光るそれは、間違いなく携帯電話だった。音だけでない。バイブ設定までされているせいで、発信音と同時にブーッ、ブーッと不気味な音が響いてくる。
「……。」
良輔は恐る恐る近づいて電話の待ち受け画面(と呼ぶのを良輔はいまいちわかっていない)を開けて見た。そして表示されているその名前に目を疑った。
北川 充。
「ミツ……? なんで……」
そう。それは間違いなくあの時亡くなった友人、北川 充だった。
電話を取ろうか取らないかしばらく迷った末、良輔は思い切って携帯の通話ボタンと思しき場所を押した。電話のマークで受話器が上がっている分、想像ができた。
ピッ、という音。嫌でも心臓の音が大きくなる。
「もっ……もしもし?」
そこから聞こえてきたのは間違いなく、懐かしい友の声。
「もしもし! 俺! ミツだよ!」
間違いなく、充の声だったのだ。
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