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7/1 17:00

「それでは……お先に失礼します」

「あぁ……気をつけて帰ってくださいね」

 職員の(ひがし)()みそのに、村長の橋詰(はしづめ) (けい)()は心配そうに声を掛けた。

「いやだ、村長。柄にもなく私に心配なんかなさらなくても大丈夫ですよ」

 みそのはクスッと笑って「それじゃ、村長こそお気をつけて」と明るく声を掛けた。

 執務室を出ると、暗い廊下が冷たい空気を保って続いていた。普段から明るいみそのではあるが、さすがにあのような事件があるとみそのとはいえ、さすがに緊張してしまう。

 ヒールの音が響く。コツコツと、女性が歩くとき特有の音。聞きなれた音のはずであるにも関わらず、緊張してしまう。

「……?」

 一瞬、足音が二重に響いたような気がしたのでみそのは思わず振り返った。気のせいだったのだろうか。廊下には誰もいない。

「気のせいね」

 みそのは再び歩き始めた。

「……あら?」

 途中で妙なことに気づいた。いつまでたっても、更衣室にたどり着けないのだ。

「道を間違えたのかしら」

 しかし、村役場はそれほど広くないうえに、執務室から更衣室までは一本道のはず。それにも関わらず、みそのはいつまでたっても更衣室にたどり着けずにいた。

 さらに、後ろからついてくる妙な気配が次第に近づいてきているような感覚に見舞われた。息を切らしながらみそのは走り続け、ようやく部屋を見つけたのでみそのはどの部屋なのかも気にせず、すぐに入った。

 ドアを閉めた直後、何かが激突する音と衝撃が走った。やはり、何者かが追いかけてきていたのだ。

「ヒッ!」

 みそのは思わず悲鳴を上げて尻餅をついた。

 ドアを何度も蹴り飛ばすような音が響く。みそのは必死に暗がりの中を這いずり回り、ようやく電話を見つけた。

「200番、200番!」

 200番は村役場の内線電話で、執務室へと繋がる。みそのは必死で村長に助けを求めようとした。

 だが、電話はザァーッと不気味な音を立てているだけで、まったく繋がる気配がない。

「何でよ、何で繋がらないの!?」

 何回も受話器を上げては切り、上げては切りの繰り返し。やがて、ドアが壊れそうになるような音が耳に届き始めた。

 バギッ! ドガッ! ミジッ!

「いや……いやぁぁ……!」

 恐怖に体が正直に反応する。冷や汗が出て、喉が渇き、頭がクラクラするのだ。

「あぁ! ケ、ケータイよ!」

 みそのは大慌てでケータイを取り出し、交番の電話番号を表示して急いでクリックした。コール音が響く。

「あぁ!」

 通じたのだ。誰か受話器を取った。

「も、もしもし! 東田です、村役場の東田みそのです! 助けて……助けて!」

 きっと幹夫が応答してくれる。あのような事件があった後だ。まだ、交番で事件の対応に追われているはず。みそのはそう思っていた。

 しかし――。

「帰れ」

 ドスの利いた、低い声がみそのの耳に絶望的に響いた。

「いやああぁっ!」

 みそのはケータイを放り投げて本棚に体を預けた。ぶつかった拍子に、新聞がドサドサッと音を立ててみそのの横に落ちてきた。

「……え?」

 みそのはその一面記事に目を見開いた。

「ど、どういうことよ……ヒッ!?」

 ドアが開く。

「いやああああ! な、なんでよ……なんでアナタがここに!?」

「……。」

「どういうつもり!? いや……だってアナタ、ついさっき……!」

 みそのの目の前にさっきまで見えなかったはずの夕陽が差し込み、その人物――遠藤 志甫が振り下ろそうとする刃物をギラッと反射させた。

「いやああああああああああああああああっ!」

 その悲鳴を最後に、みそのの記憶は途絶えた。




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