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7/3 15:30


「んー……」

 良輔は病室のベッドで思い切り伸びをした。あれから何度かニュースを目にするが、今回の地震で既に3000人以上が亡くなっているそうだ。

「俺たち……助かったんだよなぁ」

 隣にいる美咲に声をかけた。美咲も左腕を骨折し、さらに頭部を強く打っていたそうだが、飯塚のおかげで意識を取り戻していた。

「そうだね……。なんか、私も夢見てた気分」

「夢だけど、夢じゃなかったんだな」

「そうだね。なんか、不思議」

 美咲と良輔は見つめあいながら、フフッと笑った。

「おっ!」

 ガチャ、と病室のドアが開いたと思うと雄哉が入ってきた。

「なんだよ~お二人さん! いい感じなわけ?」

「バッ! バカ! そんなんじゃねーよ」

 良輔が顔を真っ赤にする。

「あれぇ? またまたぁそんなこと言っちゃって!」

 雄哉がグイグイと良輔のわき腹をつついた。

「バァカ! まだ(いて)ぇっつの!」

 良輔も仕返しとばかりに雄哉のわきをこそばした。笑い声が病室から響き渡る。

「なぁ」

 雄哉が不意に真剣な顔つきになった。

「何?」

「これから……お前ら、どうすんだ?」

「……。」

「村……なくなっちゃったじゃん」

 地震による土砂災害で、西羽生村は建物どころか村のあった場所すべてが埋め尽くされてしまった。復旧や復興という次元を超えた被害である。

「私たち……みんな、離れ離れになるのかな」

 美咲も寂しそうに呟く。

「俺ん家は、広島のばぁちゃん家行くことになってるらしい」

 良輔が言った。

「マジかよ」

 雄哉が落胆する。

「でもさ!」

 良輔はガシッと美咲と雄哉の肩に腕を回した。

「俺らは、ずーっと一緒だ」

「……なんだよ、その臭いセリフ」

 良輔は少し赤くなりつつも、返した。

「だって俺ら、1回死に掛けてるのに、またこうして会ってるじゃん」

「……。」

「だから」

 良輔は満面の笑みでこう言った。

「どんだけ離れ離れになっても、俺たちずっと、一緒だ」

 グッと胸に親指を押し付ける良輔。それを見た美咲と雄哉が、ニッコリ笑った。

「そうだな……」

 雄哉がギュッと良輔の手を握り締める。

「みんな、生きてる」

 美咲も二人の手を握り締めた。

「またいつか、絶対、会おうぜ」

「うん」

 美咲の目から涙がこぼれ落ちた。

「おう」

 雄哉も涙目になっている。

「そんなに泣くなって! 二人とも!」

 良輔は二人の肩を叩きながら、笑った。

「良輔~」

 摂子の声がする。

「ほら、二人とも涙拭かないと、母さん入ってくるぜ」

「うん……」

 雄哉と美咲は涙を拭い、雄哉が病室を出て行く。

「良輔!」

 雄哉が振り返った。

「ん?」

「またな!」

「……おう!」

 雄哉が病室を出る姿を見送る。良輔と美咲はその後ろ姿をしばらく見つめることしかできなかった。

「……。」

 本当に、夢のような出来事だった。良輔は負傷した自分の手をジッと見つめる。

「美咲」

「何?」

「俺……将来、研究者になろうかな」

「やだ。急にどうしたの? 良輔らしくもない」

 美咲がクスクスと笑う。

「俺、真剣(マジ)だっつの!」

 笑い声が響き渡る病室。二人はしきりに笑った後、再び良輔が真剣な面持ちで言った。

「さっきの、ホントだからな」

「そうなの?」

「おう」

 良輔は無事だった手を握り締めた。

「飯塚先生みたいになって……どんな形でもいい。死と生の淵にいる人を……助けられるような、あんな先生になりたい」

「……怖い思いさせられたけどね」

「それ言っちゃあおしまいだろ!」

 再び大笑いする二人。傾きかけた太陽が、土砂で埋まった西羽生村のほうも明るく照らし始めていた。

「良輔……」

 どこからともなく、誰かから呼ばれた気がして、良輔はキョロキョロと辺りを見渡した。

「どうしたの?」

「いや……」

 しかし、声は次第にハッキリと聞こえてきた。

「良輔」

「……!?」

 突然だった。グラリと良輔の体が揺れ始めたのだ。

「よっ、余震!?」

 転倒して頭を強く打ったのか、良輔はそのまま意識を失ってしまった。


「良輔!」

「!」

 次に目を覚ますと、摂子がエプロン姿で目の前にいた。

「起きなさい! 何時だと思ってるの!?」

「え……えぇ?」

 いつもの朝。

 いつもの自分の部屋。

「夢……?」

「何寝ぼけてるの。学校に遅れるでしょ? 早く着替えて、下に降りてらっしゃい」

「う、うん……」

 良輔は寝ぼけ眼を擦りながらパジャマ代わりに使っているシャツとズボンを脱ぎ捨て、制服に着替えた。

「よしっと!」

 悪い夢を見ていたんだ。良輔はそう思いながら、着替えて部屋を飛び出そうとした。

「……!」

 自分の部屋にかけてあるカレンダーに、目が留まった。

「7月……1日……」

 なんとなく不安な気持ちが良輔の心を包み込む。

「いや……夢だったんだ」

 良輔はブルブルと首を振り、下に降りてご飯を食べに向かった。

「行ってきます!」

 朝食を終え、家を飛び出た良輔。腕時計は、午前7時40分を指していた。

「おっはよー! 良輔!」

 美咲が勢いよく手を振る。

「おはよ、美咲! 雄哉は?」

「今日はおつかいでちょっと遅れてくるって」

「そ、そうなんだ……」

 記憶の断片にある。この瞬間、どこかで迎えたような……。

「良輔?」

「いや……なんでもない」

 そう言って笑顔で応えた瞬間、だった。

 地面が揺れた。

 美咲が悲鳴を上げる。

(ウソだろ……!?)

 すべては夢だったはずだ。そう思い、良輔は後ろを振り返った。

「……!」

 土砂が、自分たち目がけて雪崩降りてきた。

(マジ……かよ)

 また、あの3日間を繰り返せってか?

 良輔は自虐的に笑った。

(また……会えるってわけか)

 最後の最後で、良輔は美咲の上に覆いかぶさった。それは、前に同じ経験をしたときとは異なる行動だった。

(何度でも立ち向かってやる)

 良輔は心に決めていた。何度でも立ち向かい、いつかきっと、本当に笑いあえる日を絶対に迎えてみせると。

 土砂の音が響き渡る。

 

 新たな3日間が、幕を開けた瞬間だった。






                   ― 完 ―







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