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「みっ……美咲……!」
信じられないことに、美咲の体はスウッと吸い込まれるように透明になり、次第に良輔の前から姿を消し出したのだ。
「うああああああああ! 美咲、美咲ぃ!」
良輔は辛うじて握ることのできる美咲の手を握り締めた。美咲が何か言っているのを感じ取った良輔は、必死に薄れていく美咲の顔に耳をくっつけた。
「何? なんだよ、聞こえない!」
「……て」
「え!?」
「安心して。雄哉が……良輔も助けてくれるから」
「え……?」
「また、会おうね」
「みっ……さき……」
そのまま、美咲の姿はまるで初めからなかったかのようにスッと消えてしまった。
「……お前が」
良輔が涙をこぼしながら雄哉を睨みつける。
「お前が殺したのか!?」
「……。」
雄哉は何も答えず、腰の辺りに隠し持っていた拳銃を取り出した。
「どっ……どっからそんなもん……」
「美咲がお前の親父、殺しちゃってくれたからさ~。こんなの取るの、カ・ン・タ・ン」
「ふざけやがって……!」
良輔が立ち上がろうとすると、雄哉はスッと銃口を向けた。
「動くな」
「……お前、何が目的でこんなこと……」
不意に雄哉が動きを止めた。
「もしもし」
「……?」
「はい。はい……え?」
雄哉の顔色が変わる。
「……わかりました」
「誰と喋ってんだ?」
「俺は平気です……」
雄哉の顔が笑顔になる。
「コイツらが……元気でいてくれれば俺は、それでいい」
良輔は雄哉の言動をまったく理解できずにいた。
「なっ……何が、何が俺たちが元気でいればいいだ! お前が……お前が美咲もそそのかして、この村の人たち、殺したんだろう!?」
雄哉は何も言わず、銃を再び良輔に向けて構えた。
「何とか言えよ! この最低野郎!」
「何とでも言えよ」
雄哉が冷静に言い放った。良輔はもはや、目の前にいるのは親友でもなんでもないと感じ取っていた。ただの、殺人鬼だと理解した。
「うわあああああああああああああ!」
美咲。
美菜。
幹夫。
摂子。
この村にいた、大切な仲間たち。
すべてが、雄哉によって過去のものにされたとしたら。
そう考えるだけで、良輔は気が狂いそうだった。
「殺してやる!」
良輔はただ、それだけを考えていた。しかし、丸腰の良輔にそんなことはできるはずもなかった。
パァン!
乾いた音が響き、良輔の腹部に衝撃が走る。
「あっ……!」
パァン!
二発目が、正確に良輔の左胸部を打ち抜いた。
「……あ」
そのまま仰向けに倒れる良輔。ドンッ……と体が地面に叩きつけられる。
「……。」
雄哉が、倒れた良輔を見下ろしていた。雄哉はそっと跪くと、良輔の体を抱き締めた。
「元気でな……」
「……?」
ゴポッと口から血が溢れる良輔。雄哉の言葉の意味がまったく解せないでいた。
「また……会おうな……」
それだけを言うと、雄哉はスッと立ち上がり良輔のところから立ち去ろうとした。
(逃……がす……か!)
良輔は必死だった。友人や家族を殺した殺人鬼をみすみす、逃すつもりなどなかった。最期の力を振り絞り、良輔は必死で雄哉が置いていった拳銃を右手で握り締めた。
(バカ……や……ろ……!)
パァン!
立ち去ろうとした雄哉の左胸に、衝撃が走った。
「なっ……!?」
驚いて雄哉が振り返ると、良輔が先ほどまで自分が構えていた銃を握り締めていた。
「お前……クソッ!」
しかし、良輔は怯まない。もう一度引き金を引くと乾いた音がして、そこから発射された銃弾は見事に雄哉の額を撃ち抜いた。
そのまま雄哉は、良輔からは見えない角度へ倒れていった。
「ハァッ……ゲボッ!」
良輔の口から大量の血液が吐き出される。
「誰か……生き……残ったのかな……」
一体、雄哉がどれだけの村人を殺害したのかはわからないままだった。しかし、良輔は後悔などしていなかった。もしも、生き残っている村人がいるとすれば、自分は彼らを救ったのだ。そう感じていたからだった。
「あ……」
自分の右腕に刻まれた、謎の刻印がいつの間にか「00:00:12」にまで縮まっていた。
「へへ……。これ、俺の寿命ってか……?」
良輔はクスッと笑った。
「こんなことになるなら……」
最期に確認したのは「00:00:07」だった。
「もっと……」
何を言いたかったのかは自分でもわからなかった。
そのまま良輔の意識は、暗闇に吸い込まれるようにして消えていった。
<残り0人?>