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7/2 12:45


「あなた……何か隠してない?」

 不敵な笑みを浮かべる美咲に、雄哉は鳥肌を立てた。

「か、隠してるって、何を?」

「例えば、やってはいけないことをやっちゃった……とか」

 雄哉は心臓がバクバクと鳴るのを気にしないフリをして、美咲の微妙に核心をはぐらかす言い方に少し、腹立たしさを込めながら言い返した。

「お前が何を言いたいのか、俺にはわからないよ」

「……そう」

 美咲は残念そうな表情を浮かべた。

「だったらいいの」

 美咲の表情が、いつもの明るいものへと戻った。けれども、相変わらず顔色は良くないままだ。その顔色が、雄哉の決意をさらに固いものへとさせていることに、美咲自身は知るよしもない。

「もしもね。もしも、雄哉が話してくれる気になったら……いつでも、私に声をかけて」

「……。」

「ね?」

「……あぁ」

 雄哉は人懐っこい顔を浮かべた。

「それじゃ私、中に戻るね」

 美咲は手を小さく振ると、室内へと戻っていった。

「……。」

 雄哉は美咲の姿が見えなくなったのを確認して、はじめに行こうとしていた場所へと足を向けた。

 歩いて5分ほどの山道で、雄哉は茂みへと足を向けた。

「ゴメンね? おとなしく、しててくれた?」

 雄哉は山道から見えない茂みの中、村の中でも大きい楠が生えている場所に、彼らはいた。いや、そこへ強制的に連れて来られたのだ。

「ンー! ンー!」

「ダメだよ、美々ちゃん……。大声出したらお兄ちゃん、美々ちゃんから先に何とかしないといけなくなっちゃうからね……」

 大地は相変わらずまっすぐ、雄哉を見つめている。

「どうしたの? その反抗的な目つき……」

「知ってるよ、僕」

「何を?」

「お兄ちゃん……今から、僕らを殺すでしょ?」

「……!」

 大地の不敵な笑み。美咲のそれを彷彿とさせる同じような笑みだった。

「でも、それは仕方のないこと……。違う?」

「お前……誰だ?」

 雄哉はグッと大地の顎を持ち上げた。

「大地だよ? 濱 大地……」

「……上等じゃん」

 雄哉は服の背中の辺りからロープを取り出した。ゆっくりと、まずは美々のほうへと近づく。

 仕方がない。

 皆を救うためだ。

 先生だって言ってた。

 辛いかもしれないけれど、みんなの笑顔をもう一度見たいだろう。そう声をかけ、勇気を与えてくれた。

 辛い。本当に辛い。けど、みんなの笑顔がもう一度見たい。そのためなら、自分の手を汚しても、構わない。

 雄哉の頭の中で、その考えばかりが巡っていた。

 美々が震えている。ためらえば、今までやってきたことがすべて無になってしまう気がした雄哉は、一気に美々の首にロープを巻きつけた。

 だが。

 巻きつける前に、それは起きた。

「あ……ガ……ガァ……!」

 美々の首が、ゴキゴキと不気味な音を立てて凹み始めていた。突然の展開に、雄哉と大地が目を丸くする。まだ雄哉は、美々に一切手を掛けていない。

「な……なんだよ、なんだよコレ」

「……!?」

 あっという間に、美々の顔が鬱血したようにドス黒くなって、ガクンと頼りなく首が前へ倒れた。

「ど、どうなって……」

「ヒグッ!」

 大地が今度は悲鳴を上げた。

「だ、大地!」

「いやだ、嫌だ! に、兄ちゃん……兄ちゃん!」

 雄哉は耐え切れずに、大地のほうへと近づこうとした。先ほどまで何か、雄哉を追い詰めるかのような言葉を吐いていた大地が、いつものように雄哉を兄ちゃんと呼んでいる。しかし、その言葉は悲痛そのものだった。

「ガッ!」

 しかし、大地へ近づこうとした途端、何者かに突き飛ばされたかのような感覚に襲われた。

 ジンジンと右胸に痛みが残っていたが、そんなことは雄哉に関係ない。なんとしてでも大地を助けようとしたが、雄哉は大地に近づくことすらできないまま、美々の首と同じように大地の首がミシミシと嫌な音を立て始めた。

「あ……あぁ……だ、大地……!」

「ぐ……は……! ゲボッ……がは……」

「あああああ……ああああああ!」

 ガクン、と大地が首を前に倒した。

 不気味なほどの静寂が周囲を包み込む。雄哉は力なくロープを落とし、その場に座り込んだ。美々と大地の遺体が、雄哉の目の前で首を垂らしている。

「なんなんだよ……。なんなんだよ! 聞いてねぇよ、こんな話!」

 雄哉の頭の中で、先生から聞いた話とは違うことが起き始めていることに、対処できなくなってきていた。


 ――世界を救えるのは、君次第だから。辛いけれど、頑張れ。


「こんなので……世界が救えるのかよ!?」

 雄哉は大声で叫んだ。その声が空しく響いていく。

「そこで何をやってる!?」

 ビクッと雄哉は体を震わせた。

「そっ……十河さん!」

 村で唯一の消防士、十河(そごう) 平祐(へいすけ)だった。

「は……早くそこから離れろ!」

「え?」

「お前知らないのか!? この楠の噂……!」

「そ、十河さん?」

「いいからお前、こっち来い!」

 雄哉は言われるがまま、平祐に手を引かれて先ほど通ってきた山道へと連れ出された。

「……。」

「十河さん」

「10年前……俺が中学生の時、あの楠の前で遊んでいた男の子と女の子が……今みたいに、俺たちの目の前で同じように……死んだ」

「な……」

 雄哉の頭が混乱する。

 この村に隠されている秘密って、なんなんだ?

 雄哉は今すぐに、美咲と良輔に会う必要があると感じた。平祐の話を聞いた後、絶対に彼らに会う。雄哉は胸の奥でそう、誓った。




<残り19人>



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