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7/1 20:30

 美菜の事件現場では、新吾と愛佳が遺体の状況を調べていた。

「良輔」

 父の幹夫が彼の名前を呼ぶ。しかし、虚ろな表情をしたまま、良輔はブツブツと美菜の名前を繰り返し、呼ぶばかりであった。

 病院内では、警察の制服に身を包んだ幹夫が駆けつけていた。唯一の事件の“目撃者”になっている良輔に、話を聴きにやってきたのだ。

「良輔。顔を上げなさい」

 ようやく上げた顔。その先には、強く見つめる幹夫の顔があった。急に恐怖心が湧き上がってきた良輔は必死に叫んだ。

「違う……違う、違う違う違う! 俺じゃない! 父さん! 俺じゃない……俺が美菜を……あんなことすると思う!?」

「落ち着きなさい、良輔」

「……。」

 幹夫がフーッとため息を漏らした。

「良輔」

「……何?」

「もうひとつ、知らせておかないといけないことがある」

「……何?」

 幹夫が疑いの眼差しで良輔を見つめながら、言った。

「板倉先生の……遺体が見つかった」

 良輔の顔面が真っ青になっていく。

 バレてしまった。しかも、父親に。

「板倉先生の死因は、撲殺だ。何か、大きな陶器で殴られたのか、頭蓋骨が陥没していた」

「……先生も」

 うまくいった。そう思った。驚いた顔をしたつもりだった。

「殺されたの?」

「十中八九、その可能性が高い」

「そう……か」

 自分が殺したんだ。そんなこと、言えるはずもなかった。

「遺体は、坂科川の土手から見つかったんだ」

「……へ?」

 坂科川の土手。そこは、良輔の家からは1kmも離れている場所だった。どちらかといえば、濱 大地や塚本 美々の家のほうが近いだろう。

「父さんとしては、遠藤さんに続き、これも殺人事件の可能性が高いとして、捜査している。間もなく、長野県警本部からの応援も入る予定だ」

「そっか……」

「さらに」

 次の言葉に、良輔は身の毛をよだたせることしかできなかった。

「市職員の東田さんも、他殺体で発見された」

「ひ、東田さん!?」

 突然の良輔の大声に、幹夫が目を丸くした。

「どうした?」

「いや……別に」

 良輔はもはや、幹夫と目を合わせることができなくなっていた。

「とにかく、今は村人全員に外出禁止令を村長が出している」

「外出禁止令……」

 相当な出来事になっているようだ。それもそのはず、たった1日で既に4人もの人間が亡くなっているのだ。

「父さんの個人的な判断だが」

 それはまるで、良輔に問い掛けるような言い方であった。

「犯人は、村の中にいるような気がして、父さんはならない」

「……村の中に」

「そう。残念な……話だけどな」

 フゥッ、と幹夫がまたため息を漏らした。

「ちょっと喉が渇いたな」

「そだな。ちょっと、ドキドキしちゃったし」

「何か飲み物を取ってこようか」

「うん」

 そう言って、幹夫が席を外す。すぐに、良輔は頭をガシガシと掻きむしり始めた。

「ヤバい……ヤバい……」

 聡明の遺体が見つかった。これは、良輔にとって打撃だった。自分の罪が明るみになったのだ。それ以上に、謎が残る。

「誰が……死体、動かしたんだ?」

 誰かが、良輔が自宅の庭に遺体を隠したことを知っているのである。そうでなければ、遺体を移動させることなどできるはずがなかった。

「雄哉……?」

 あの時、まさにその場面を見ていた可能性が高かったのは、雄哉だ。ひょっとすると、雄哉は良輔の罪に気づき、何かもっとわかりにくい場所へと思って、遺体を移動させたのだろうか。

 良輔はわかりもしないことを、懸命に考え続けた。その時だった。

「……!」

 ヘリコプターの音が聞こえてきたのだ。

「ヘリ? 何で……! もう、来たのか?」

 警察の応援が来ると聞いていた。ひょっとすると、そのヘリなのか。不安になった良輔は表を覗いてみる。しかし、新吾と愛佳が美菜の遺体の状況を調べているだけで、それ以外にヘリコプターの姿はおろか、人の姿すら見当たらないのだ。

 新吾と愛佳も、ヘリコプターの音は聞こえていないのか、黙々と美菜の検死を進めている。

「気のせい……か。……ん?」

 良輔の目に、テレビが見えた。

「そうだ。事件のこと……何かやってるかも」

 テレビのチャンネルを適当に変え、ニュース番組らしいものを見つけたのでそれを見てみることにした。キャスターが深刻な表情で、ニュースを伝えている。

「……日に発生し……県……羽……村……。マグ……、……度……は……、東京でも4……」

「おい! しっかりしろよポンコツテレビ! 何言ってるか聞こえねぇじゃんか!」

 バシバシとテレビを何回か叩いた。それがまずかったのか、ブツン!と音を立てて映像が消え、音も聞こえなくなった。その直後だった。不意に、音がハッキリと聞こえたのは。


「死者は既に、450名以上を数えており――」


「え?」

 死者450名。良輔の耳には、確かにそう聞こえた。

「450……? 何、それ……。っ!?」

 頭に突然、火を点けられたような猛烈な熱さが襲った。

「アガッ……!」

 そのまま、良輔は無様に倒れるしかなかった。そして、良輔を殴った人物は傍を通り過ぎ、さっきまで見ていたテレビを徹底的に破壊していく。

(死者450って……何が起きてんだよ……)

 再び途切れる意識。


 良輔の知らないところで、世界は確実に変わろうとしていた。


 

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