プロローグ いつもの朝
目覚まし時計が響く。
「良輔〜!」
「うーん……」
「良輔! いつまで寝てるの!? いい加減、起きなさい! 遅刻するでしょ!?」
「うぇ〜いっす……」
長野県 西羽生村。全人口25人というこの村に住む中学3年生・野沢 良輔は眠い目を擦りながら起きた。
「おはよ……」
「おはよじゃないわ!」
母の摂子がプリプリしながら目玉焼きを焼いている。
「お兄ちゃん遅い〜」
妹の美菜がヨーグルトを頬につけながら笑う。
「お兄ちゃんは低血圧なの〜」
そう言って良輔は美菜の頬についたヨーグルトを取ってあげた。妹想いの良輔だからこそ、寝ぼけていてもできることだ。
「怖い顔して何読んでんの、父さん」
父の幹夫が朝刊を珍しく読んでいる。
「あなた。食事中はよしてちょうだい」
「あぁ……スマンスマン」
バサッと音を立てて新聞がソファに放り投げられた。その一面に、なにやら事故か事件があったのか、大きな写真とデカデカとした字が書かれていた。
(なんだろ……)
良輔は少し気になったが、摂子が「早く顔洗って歯磨きしておいで!」と言うので良輔は慌てて洗面所へ駆け込んだ。
結局、良輔はその後制服に着替えたり荷物の準備をしたりとバタバタしてしまい、ニュースも新聞も見れないまま、登校する時間になった。
「お兄ちゃ〜ん! はーやーくー!」
美菜が急かす。
「わかったわかった! じゃ、行ってきます!」
「車に気をつけてね〜!」
「この田舎じゃ車なんて滅多に走らないって。じゃー!」
そう言うと美菜と良輔は手を繋いで走り出した。
鮮やかな朝日が降り注ぐ。
何の変哲もない一日が始まる――はずだった。