第三話 妹(自称)が現れた!
ダンジョン(?)へ入るとまず目に飛び込んできたのは
「なんか鉄製のドアとインターホンがあるんですけど」
そこはまさしく日本でよく見る光景だった。まるでアパートの一角である。
「どうしよう」
悩む。押すべきか、押さざるべきか。ここで押せばなんらかのアクションは起きるだろう。たとえそれが確死イベントだとしても。押さないを選べば何も起きないのでまず、安全だろう。ただし、ストーリーが進まず、そのまま詰むってこともあり得る。どうするべきか。だか、俺はそんな理屈っぽいことはどうでもいい。ボタンがあれば押せ、それが我が家の家訓である。
ピーンポーン
「はーい」
扉のむこうから返事をしたのは高い声だった。声質的に相当、若いな。とりあえず、扉から離れておこう。
そして扉が開くと
「はいはい、誰です───え?」
出てきたのは紫がかった銀髪の赤い瞳の少女だった。その少女は俺と目を合わせるなり戸惑いの表情になる。そして、目の端に涙をためはじめた。俺、なんか悪いことした?と戸惑っていると
「お……」
「お?」
「お、おにぃぃいい!!」
と抱きついてきた。おにい?お兄?つまり俺はこの少女の兄?俺にこんな美少女の妹なんかいたか?いるにはいたが──、心当たりがないので多分、他人の空似だろう。
「え、えーっと。俺は──」
「おにぃ、会いたかった!!」
……いい笑顔すぎて言いづらい。うん、この子の笑顔のためにも俺が本当の兄じゃないってことは隠し通そう。決して落胆する姿が見たくないだの、この子におにぃって言われて嬉しかったとかそう言う訳じゃないからな。ほんとだぞ。
「とりあえず上がって!」
ふむ。いままでずっと歩きっぱなしだからな。お言葉に甘えて上がるとしよう。なんてったって俺はお兄ちゃんだからな!妹の好意は素直に受け取るのが役目である。そして妹(自称)が扉へと入っていく。俺もそれについて行こうとすると急に体に力が入らなくなる。
「くっ.......なん..だ....」
体に力が入らず前のめりに倒れてしまう。いたい、玄関が石畳なのが地味にいたい。視界の端で妹(自称)が必死に体を揺らしているのがわかる。だが、感覚も声も段々と分からなくなり、俺は意識を失った。
目を覚ますと知らない天井だった。俺はまたも異世界転生?していたのか。と、体を起こし辺りを見渡すと部屋はやけにピンクで埋め尽くされた。枕元にはピンクの怪獣がいた。名前は忘れたがなんか頑固だった気がする。と、この部屋の扉が開き、さっきの、妹(自称)はめんどくさいので自妹と省略しよう。はベッドのそばに来ると喋りかけてくる。
「起きましたか、兄上」
兄上?色々突っ込みどころはあるが、なぜ兄上と呼ぶんだ。おにぃと呼んでくれ、おにぃと!まあ、そんなことは置いといて、まずは自身の状況把握からだ。なぜ、俺は倒れたのだろう。
「すみません、このダンジョンには体内に魔素を保有する生物の総魔素量の八割を奪うんです。ですが、扉を初めてくぐるときだけですので安心してください。」
っていうか、ここの住人ならその特性を知っていたはずだがもしかしてドジ?もしくは天然?
「ということは今の俺はまずい状態だったりする?」
「私が魔素を渡したので活動に十分な魔素量を確保できています。」
「渡したって、どうやって?」
すると、自妹は顔を赤くし、無理矢理話題を変える。
「それより!体調は大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとう」
「いえいえ、これも兄上の為ですから」
「ああ、うん」
自分で隠し通そうと言ったがそれでも罪悪感ぱないな。いつか本物の兄に会わせてやりたい。そのためにも情報が欲しい。この世界のことを知らなすぎる。唯一、知っているのは鑑定のことと、砂の味だけだ。
「なあ、俺さ、こっちの世界にきたばっかりなんだ。だから、この世界について教えて欲しい。」
そこで自妹はカクンと首を傾げる。
「あれ?そうでしたっけ」
俺の言葉に何か疑問に思ったことがあったらしいがどうでもいっか、と自己完結して、俺にいろんなことを教えてくれた。
この世界、もちろん地球とは別の世界らしい。この世界は4つの大陸と6つの種族から成っている。種族に関してはあまり知らないが大陸に関してはある程度知っているらしい。北にある大陸。東にある大陸。西にある大陸。そして、南にある大陸。それぞれ独自の特徴がある。北にある大陸は火山地帯になっていて全体的に気温が高いらしい。住んでいる魔物も火属性のやつがおおいんだとか。東にある大陸は樹海になっていて木属性の魔物が多い傾向にある。西の大陸は水の大陸とも呼ばれていてなんと、月に一回、大陸全体が水に沈むんだとか。怖いな。さすが異世界。南にある大陸は神魔璧で囲まれていて一切、光が差し込まない大陸らしい。ちなみに現在地がこの大陸って聞いてめちゃびっくりした。まあ、確かにあの空は異常だったけど。でも、光が無くても住んでいるのは魔族だから魔素さえあればいきていけるんだと。
「ってか、魔素ってなんだ?」
「魔素はですね、全ての力の源。例えば──」
と自妹が手の平を上に向けると
「うおっ」
火が出た。
「この炎は魔素を変換するとこによって燃やすという現象を引き起こしたものです。ちなみに魔素を使い現象を引き起こすとこを総称して魔法と言います。」
「おお、なら俺にも使えるのかな!」
俺にも魔法が使えたなら異世界の知識とかでアレンジしまくって無双してやるぞ。
「いえ、実はもう一つ魔術というものがありまして、」
「?それは魔法と何がちがうんだ?」
「魔術はいわゆる魔術因子と呼ばれるものが引き起こす魔法とは異なる力。その人にしかないオリジナルの魔法みたいなものです。例えば兄上の、魔素を吸収するのだって魔術です。」
「俺の?なんだ、つまり魔術ってのは体質みたいなものか?」
「その解釈で間違っていないと思います。そして魔術因子というのは魔法を行使する上でプロセスを妨害する働きがあります。つまり、魔術を使える人は魔法を使うことができません」
ダメじゃねえか!俺の無双計画が。
「ってか、なんで俺の魔術?を知ってんの?」
「秘密です」
秘密ときたか。それにしても謎が多すぎる。この子は誰で、なんで俺を兄と思っているのか。なぜ、俺の魔術を知っているのか。そして、なぜここが異世界なのに部屋がアパートみたいな造りになっているのか。何より、なんでこのダンジョンはここにあるのか。
「なあ、君の名前は?」
「え……おにぃは私の名前を忘れたの?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど、君が本当に妹なのか確信を持っておきたいんだ」
そういうと納得してくれたらしく、ゆっくりと名前を告げていった。
「私は藍沢阿莉佳。兄上こそ、兄上ですよね」
日本名に驚くも、確認をとられては答えるしかあるまい。
「ああ、当然だ。俺は──」
と自身の名前を言おうとして声が詰まる。おかしい。思い出せない。俺の──俺の名前はなんだ?
主人公は高校生なりたてなのでこんなもんだと思います